骸の氷

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 ————がたがた、がたがた。  後ろの木箱が揺れるのを感じた。  恐る恐る振り返るも、そこには何もなく、木箱は木箱のままだ。しかし妙な重みを感じ、木箱を怪しく思えた千丸は、不本意ではあるが木箱を開けることにした。  ゆっくりと、蓋をずらしていく。その中身に千丸は仰天した。  中には夢で見た女の亡骸が膝を抱えた姿で入っていたのだから。女は躰のあちらこちらに傷を持っており、さらに氷のように冷たく凍死しているようだ。 「ひいっ!」  千丸は後ろに尻もちをつき、しばらく膝が震え立てなくなってしまった。 「な、なんというものを運んでいたのだ。ひ、人の骸なるものなど。しかも今しがた動いておったぞ」  妖か、そう思い、身構える。しかし待てど暮らせど、その木箱から女が出てくることはなく、不思議に思った千丸は木箱の中身を恐る恐る確かめる。  しかし中には女はおらず、代わりに氷が入っていた。 「ま、幻か?それにしても生々しい」  するとあの僧の言葉を思い出し、気味悪く感じてきた。なんにせよ、妖霊ごときに足を止めるわけにはいかないと思い、気を取り直して歩き始める。その足取りは重く、運ぶ氷も切り取った時よりも重く感じた。  きっと、疲労困憊しているんだ。  しかしこんなことは長年氷職人をして初めてだ。  それからしばらくしての事だ。眠れば女が振り返る夢を見て、夜道では常に木箱が揺れる音を感じ、恐怖に見舞われる。  きっと自分には何かが憑依されているんだ。
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