骸の氷

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 数日後、千丸は京に辿り着いた。あれから何事もなく。  そう、口にしたところで死ぬわけでもないし、実際千丸もここまで運んでこれた。千丸は貴重な体験で不思議な夢でも見ただけだと割り切り、無我夢中に歩き続けたのだ。  そこまでの道のり、水を恐れほとんど水を摂っておらず、それでも暑さに耐えた千丸の顔つきはやせこけ、まるで病人のようだ。  これを運び終えたら後は何も心配することはない。ゆっくり水を飲んでしまおう。  京は広く、天皇のいる内裏まではまだまだ遠く思う。水滴と汗が滴り落ち、喉の渇きに声も出せず、炎天下はますます千丸を容赦なく射貫く。  あと少し、あと少し。  内裏に辿り着いたころ、天皇と貴族、中には上級武士もが待ち構えていた。氷菓を楽しみにしているのだ。 「おお、氷よ。待ちわびておった。早う中を見せ」  中を開くとそこには何とも透き通った氷であろうか。しかし切り取った時よりも半分以上小さくなっていた。解け切れなかっただけ素晴らしいもんだ。  久方ぶりに見る氷に、やはり彼らも大いに喜び。早速、家臣を走らせ氷菓の準備に取り掛かる。今回はどの様にして氷を嗜むのであろうか。 「千丸と言ったか、褒美をくれてやる」  氷職人の褒美は大きい。千丸も毎年、米を有り余るくらいにもらっていたのだが、千丸は自分から褒美を指定してきた。 「褒美は水を下さい。そもそも、この地に踏み入れる事さえ、我には絶大な報いでございます」  その言葉に流石に驚いた天皇と貴族は、言われるがまま井戸から汲んだ水を少々よこした。その水を千丸は平らげてしまい、飲み干すとゆらゆらと、内裏を後にし帰っていった。
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