6.告白

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 先輩は淡々と語っていたけれど、私は何とも言えない不思議な感覚を味わっていた。それはまるで、先輩の瞳の奥に淡雪の気配を感じるような。死して尚、妻が夫をどれだけ愛していたのか――淡雪の告白を、尚親に成り代わって聞いている……そんな気分だった。 「俺だって同じだ」 「え?」 「尚親の死の真相を突きとめたいとか、直緒には俺に教える義務があるとか言って、その(じつ)……」  そこまで言って先輩は口を歪めた。その先に続く言葉は、先輩の性格からして凄く言いたく無いのだろう。でも私は意地悪く、先輩の口が再び自ら開くのを待った。きっと今から言う言葉は、先輩の大事な本音だと思うから。  長い沈黙の時間(とき)が流れた。普通なら「もう話すことが無いのか」と、諦めて席を外してしまう位の。沈みかけた陽の光を浴びながら、遠くの滑り台で遊んでいた男の子達二人も、名残惜しそうに公園を後にする。  やがてこの公園は、私達二人だけの世界になった。そうなって初めて、先輩は絞り出すような小さな声でポツリと呟いた。 「直緒と一緒に居たかっただけだ」  心臓が一気にドクリと高鳴る。一瞬、聞き間違えかなと先輩を振り返るけれど、先輩は固まったようにこっちを見ようとしない。よく見ると、彼のこめかみを一筋の汗が流れていた。 「でもあのショウとかいう占い師から『尚親には許嫁がいた』って聞いて、淡雪も俺も、実は独り相撲だったんじゃないかって……」  更に声は小さくなる。それと同時に先輩は前屈みに項垂れ、両手で額を押さえた。 「尚親が淡雪に恋してたかどうか訊いたあの時、直緒は答えなかっただろ? それは尚親が本当に嫁にしたかったのは雲珠姫で、だから直緒は俺に雲珠姫のことを隠していたんだと……」 「それは……」 「直緒と一緒に居たかったのは俺だけで、直緒にはもう別に好きな人が……」  自信なさげな、消え入るような声でそこまでを紡いだ先輩は、停止ボタンを押されたように固まってしまった。暫くの間、公園を流れる時が止まる。 「な……に…………してんだ? 直緒」  気が付けば、私は前屈みに項垂れたままの先輩の身体を、横から抱き締めていた。 「な……に…………してるんでしょう?」  衝動的に抱きついてしまったせいで、とても今の顔を見せられず、頭を先輩の背中に押し付ける。あんなにいつも自信満々だった響介先輩が、尚親と私の気持ちについてポツリポツリと自信無さ気に話す様子に、どうにも気持ちが抑えられなくなったのだ。そしてつい、抱き締めてしまった。
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