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当日の土曜日。私と先輩は10時ちょうどに喫茶アルカナへ到着した。この店は先日、ショウさんが柴山さんを紹介してくれたお店だ。ショウさんは以前と同じ席で本を読みながら待っていた。
「ショウさんお久しぶりです」
「あぁ」
私の声に気付いたショウさんは、読んでいた本を閉じて改めてこちらを見た。黒縁の眼鏡に明るい茶色の髪がサラッと動く。安定のイケメンぶりだ。
ショウさんの顔をまじまじと見ていた先輩が、急に私の顔を覗き込んだ。どうしたのかと不思議に思っていると、次の瞬間、何故かホッとしたような顔になっている。一体何だったのだろうか。とりあえず私達は、ショウさんの向かい側の席へ並んで座った。
「君が浅井響介君だね」
「……」
響介先輩は何も発さずコクリと一つ頷いた。何故言葉で返事をしないのか、何だか嫌な予感がしていた。
「早速だけど、直緒さんから君の事情は聞いてる。前世の事を知りたいんだって?」
「あぁ。何でもショウさんは、前世占いで人気なんだってな? 驚いたよ。直緒の前世の名前まで教えたって聞いて」
返答に不穏な空気を感じて、先輩を振り返る。この顔は見た覚えがある。市立図書館で二度目に先輩と会った時の、私の前世が尚親だと予想して近づいてきたあの時と同じ目だ。
「全員が全員、前世の名前までわかるわけじゃない。直緒さんはたまたまだ」「へぇ~。たまたまでフルネームまでわかっちまうのか。そりゃ凄いな。もしかして、俺の前世の名前もたまたまわかったりするのか?」
尚も続く先輩の不遜な態度に生きた心地がしない。何故、初対面の人間に対してこんな態度をとるのか、全く理由がわからない。
「直緒さん。浅井君は俺に占って欲しいようだから、出来れば直緒さんは席を外してくれないかな」
「えっ?」
以前自分を占ってくれた時、親友の結衣に席を外させたのを思い出した。あの時は『デリケートな話』になりそうだと言って結衣を外させ、二人きりになったのを見計らって前世の話をされたたが……。今回もデリケートな話になる……という事だろうか。
「わかりました。じゃあ近くで時間を潰しているので、終わったら連絡ください、先輩」
「おう。じゃあ後でな」
二人がこの後どんな会話をするのか凄く気になったけれど、先輩が軽く手を上げるのを最後に、私は店を出て行くしか無かった。
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