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暫くの間、響介とショウだけのテーブルに沈黙が訪れた。…が、先に口火を切ったのはショウの方だった。
「君は占いを信じていないよね?」
「まぁね」
即答だった。響介は片肘を付いて上目遣いでショウを見ている。
(いくらタロット占いで前世がよく見えるからって、前世の名前までわかるもんか?)
響介はあまり非科学的なものを信用していない。前世の記憶が甦り、夢で見てしまうという現在自分に起こっている現象も、非科学的と言えば非科学的なのだろうが、自分の先祖をずっと辿っていき、もしその中に淡雪の存在があるならば、遺伝子レベルで考えれば起こり得なくは無いのではないか……という事で、自分の中では一応の納得をしている。物凄く低い確率ではあるだろうが。
しかしタロット占いはどうだろうか? 占いで他人の前世の名前までわかるというのは、もはや超能力だ。
(こいつ、もしかしたら俺達の前世と関係あるんじゃないのか?)
響介の鋭い勘が、そう告げていた。
そんな響介の挑戦的な態度を見ても、ショウは意に介さない様子で手元のコーヒーを一口含んだ。
「でも俺に訊きたいことがある、そうだな?」
「そうだ。話が早くて助かる」
互いの視線が暫くの間交わされる。相手を値踏みするような、次の一手を読むような。先に次の一手を打つのは、響介の番だった。
「何故尚親の名前を知っている? お前の前世は誰だ?」
半ば予想してたのか、ショウは短い溜息をついた。
「先に言っておくが、俺が君の質問に答える義理は無いのはわかってるよな?」
「金を払えってか?」
「そうじゃない。別にこれは占いじゃないから鑑定料を貰う気はない」
「じゃあ何だ?」
「俺が真実を言う代わりに約束して欲しい。今から話すことは、直緒さんには言わないでくれ」
へぇ~とは口に出さずに、響介は感心した。直緒に言うなという事はやはり、ショウは直緒に正体を明かしていないのだ。そしてこれからも、その正体を明かすつもりが無いのだろう。そしてそれを材料に、ショウは取引を持ち掛けてきたのだ。
「それともう一つ」
「まだあるのかよ」
「直緒さんに無理やり手伝わせてる事、やめてあげて欲しい」
「はぁ!?」
『無理やり手伝わせてる事』というのは、尚親の死の真相を探しているのを指すのだろう。ということは、直緒はこのショウという占い師に最近のことを話している、ということだ。
(こいつ、直緒の何なんだ?)
真相を探すのをやめろ…というのであれば、真相に関わる人物なのか。それともただ、直緒が無理やり手伝わされてるのに対して同情しているのか。前者の場合は、響介が最も知りたかった情報をこのショウが持っている事になる。後者の場合は、もしかしたらショウが直緒を気に入ってる可能性がある。
(どっちも気に食わねぇな)
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