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「あのショウとかいう占い師に、前世を占って貰ったんだけどよ」
そう切り出されて、いよいよ本題が始まるのだと息を飲んだ。
「俺の前世は姫さんで、そこに夫となる殿様が逃げて来たって言うわけよ。でもその殿様には、逃げてくる前に許嫁がいたって言われたんだけど……直緒は心当たりあるのか?」
そう言った先輩は、顔色を窺うようにやっと私の方を見た。いつもの自信有り気な彼とは全然別の、寂しそうな表情だった。
(雲珠姫のことだ。占いにショックを受けたって……雲珠姫のこと?)
この反応を見る限り、ショウさんから聞くまで先輩は、雲珠姫を知らなかったようだ。一度先輩に、雲珠姫を夢に見たかどうか聞こうと思った事もあったけれど……あの時訊いてもきっと知らなかっただろう。
自分ではなく、前世の尚親の事だ。例え尚親だとしても、奥寺に来た数年は故郷へ帰れる見込みが全く無く、雲珠姫のことはどこかで過去になってしまったのかもしれない。淡雪ではない響介先輩に、尚親ではない私が言い訳をする理由は全く無いのだけれど、この何とも言えない後ろめたさは一体何なのだろうか。
尚親は「雲珠姫のことは訊かれない限り、淡雪に話すべきではない」とでも思っていたのだろうか。それは現代における『以前付き合っていた恋人のことは、現恋人に話すべきではい』と同じ感覚だろうか……。
(尚親ぁ、結婚後でもいいからちゃんと話しておけよぅ……)
恋人に浮気がバレた時ってこんな気持ちなのかな、と思いながら私は重い口を開いた。
「雲珠姫……ですよね」
自分でも予想していたのか、私の回答に先輩は落胆したようだった。もしかしたら以前先輩が「尚親は淡雪に恋してたか」を訊いた時、私が押し黙ってしまったのを思い出したのかもしれない。
(こんなことになるなら、あの時雲珠姫のことを話しておけば良かった……)
前世の事なのに、先輩がこんなにショックを受けるとは思わなかった。淡雪に対して同情はしていないと、きっぱり言い切っていた先輩がだ。
先程から先輩は石のように動かない。暫く沈黙が続き、さすがに心配になる。
「響介先輩、それで今日は県立図書館……行きますよね?」
「その事だけど……」
「?」
「もういいわ」
(え!?)
「もうすぐ大会なんだろ? 部活に専念しろよ。今までありがとな」
あれ程真相究明に拘っていた先輩が、何故急に態度を一変させたのか。まさか雲珠姫の存在を知ったくらいで、あの拘りを諦めるだろうか。
わけがわからない私を残したまま、先輩は図書室を去って行った。私の思考は停止したまま、昼休みが終わるまでずっとその場に立ち尽くしていた――
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