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「そう言えばお前さ」
「はい?」
「『自分だって前世は直緒と夫婦だ』って言ってたよな?」
「言い……ましたね」
思い出して急に恥ずかしくなったのか、三沢はコホンと咳払いをして誤魔化す。今更照れるのかよ、とツッコみたくなったがそれはこの際飲み込んだ。
「前世の夢とかよく見るの?」
「……」
思わぬ問いに三沢の瞳は大きく見開き、二三度パチクリ瞬きすると響介をじっと見つめる。
「何だよその目は」
「いや、だって……俺の言ったこと信じてるのかと思って」
そうか、と響介は合点がいった。三沢は自分の見た夢が本当に前世なのかどうか、まだわかっていないのだ。直緒の前世が尚親であるのも、本人からはまだ何も聞かされていないので、裏付ける証拠を何も得ていない。だから未だに半信半疑なのだ。
(何も知らないで……ある意味コイツが羨ましいな)
そう思いながらも、響介は憐れみの目で三沢を見る。三沢の前世である桔梗ならもしかしたら、雲珠姫の存在を最初から知っていたのかもしれない。…が、桔梗の来世であるこの三沢は、今何が起こっているのかを何も知らない。
前世が雲珠姫のイケメン占い師が、既に直緒と接触しているのを。そして尚親の妻である淡雪が前世の響介が、一週間近く直緒と一緒に前世を調べていたのも。挙句の果てには、響介と直緒が三沢の前世が桔梗の方だと知っている、という事も知らない。
(下には下がいた、か)
急におかしさがこみ上げてきて口元を抑えたが、それでも抑えきれずに響介は笑った。三沢は何となく自分が笑われているのを察して気分を害したが、後方で呼ばれる声がしたので仕方なくその場を離れた。
響介も直緒に出会う前までは、あの三沢と同じで何も知らなかった。ただ、同じような夢をよく見て悩まされているだけだったが、直緒と出会ってあの夢が前世の記憶だと確信した。
最初は尚親の前世を持つ直緒に対して、憎むような感情さえあったというのに。あの頃のままだったなら、直緒が尚親の最期の夢を見ようが、関係なく調査を続行していただろう。
今では雲珠姫の存在に、雲珠姫の記憶を持つショウに、怯えている。これがおかしくなくて、何がおかしいと言うのだろうか。
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