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6.告白
帰宅後、私は財布の中からまたあの名刺を取り出した。何度も頼るのには気が引けたが、響介先輩には連絡さえもつかないのだから、別の手を打つしかない。
『相談したいのですが。』
というメールを送ると、ショウさんから直接電話がかかってきた。
「一週間ぶりだね、直緒さん。どうした?」
「実は……」
ショウさんに駅で会ってから後の、先輩と自分の状況について話した。黙ってそれを聞き終えたショウさんは、おもむろに口を開く。
「実はこの前浅井君を占った時、彼に約束させた事がある」
「約束?」
「あぁ。前に言ってただろ? 前世を知るのが怖いって。だから、浅井君が調べたがっている事に直緒さんを巻き込むなって約束させた」
それで先輩は急に「もういい」と言い出したのだろうか。しかしあの時の先輩が、ショウさんに対して妙に不遜な態度をとっていたのと元々の性格から、大人しくショウさんの言うことを聞くとは到底思えなかった。
「ショウさんと約束をしたから、響介先輩は私を避けているんでしょうか?」
「それは……恋愛相談でいいの?」
「え!?」
あまりの驚きように、ショウさんは電話先でクックックと笑う。
「よく『好きな人が自分をどう思ってるのか知りたい』って依頼するお客さん多いから。それと同じなのかと思って」
急速に顔へ熱が集まるのを感じた。でも幸い電話越しなので、この顔はバレていないはず……とは思っているものの、何となくショウさんには手に取るようにバレているような気もした。
「恋愛相談なら占わないでもないけど。何で彼が君を避けるのか」
「じゃ、じゃあそれでいいです」
「『じゃあ』はズルいな。これは恋愛相談なの? そうじゃないの?」
「ショ…ショウさん………結構意地悪」
困り果てた私の様子に、ショウさんは益々笑った。
「一つ訊いてもいい?」
「何ですか?」
「君はどうしたいの?」
「え?」
「今の状況なら、これ以上前世の事で煩わしい思いをしなくて済むと思うんだけど」
確かにそれはその通りだ。前世関係者には何人か出会っているけれど、それを認知しているのは先輩だけだし、それで前世の真相を教えろと言っているのも先輩しかいない。今の状態なら先輩による煩わしさは無いけれど、このままではこの虚無感が元に戻りそうもない。
「響介先輩を……前世の苦しみから解放してあげたいんです」
やっとの思いで、私はそう答えた。ショウさんは電話先で苦笑しているのか、「やっぱり狡いな」と呟いた。
「なら占うまでも無い。本人に直接そう言えばいい」
「で、でも連絡つかないし……」
「そんなのいくらでも方法あるんじゃないのか? 第一君自身、最初は彼から逃げていたんだろ?」
「は、はい」
「でも捕まった。彼と同じ方法をとったら?」
そうか、とあまりの単純な回答に目から鱗が落ちる。
「ありがとうございます! 先輩に伝えてみます」
「頑張って」
私達は互いに通話を切った。その後ショウさんが電話先で深い溜息を吐き、
「一番狡いのは俺か」
と言って項垂れていたのも知らずに――
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