6.告白

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 響介先輩が私を避け始めてから一週間が経った。このままの状態では部活にも出れないし、何より私が納得していない……そう覚悟した私は下校時刻、先輩の靴が置いてある下駄箱の裏で密かにその時を待っていた。そして訪れた先輩が下駄箱から靴を取り出すその瞬間、私はその腕をむんずと掴んだ。 「直緒!?」 「響介先輩、ちょっと話があります。一緒に来てください」  断らせないように、なるべく必死な顔を作ってみせる。先輩はギョッとしたまま思わず従ってしまったようだった。見えない鎖で繋がれたように、私の後ろへぴったりと続く。  学校から少し離れた場所にある閑静な住宅街に、錆びれた遊具が三つ置いてあるだけの公園があった。そのうちの滑り台にだけ、小学校に上がる少し前くらいの男の子達が二人遊んでいる。私はその滑り台から少し離れた場所にある、砂場を見下ろすように配置されたベンチを指差し、「あそこで話しましょう」と先輩を促した。 「話って?」 「単刀直入に言いますね。私、尚親の死の真相を見つけたいんです。先輩と一緒に」 「だからそれはもういいって……」 「何でですか!?」  先輩の瞳をじっと見た。逃げないでと言わんばかりに。そんな私に怯んだのか、先輩は溜息をついて観念したように話し始めた。 「あいつから、直緒が尚親の最期の夢を見たって聞いた」 「え……」 「前世の夢を見るのって結構苦しいだろ? それが切腹する夢だったら尚更だ。……だからもういいんだよ、俺や淡雪に同情しなくても。もうお前に無理強いなんて出来ない」  そう言って先輩は砂場の一点をボーッと見つめていた。 「響介先輩……いつからそんな物分かり良くなっちゃったんですか?」「へっ!?」 「だってそうじゃないですか。いつも強引だったし、私の都合なんかお構い無しだし!」 「ちょ……お前なぁ! 人がせっかく……」 「そんなの全然先輩らしくないよ! 私は先輩のそういうところ、嫌だったけど尊敬もしてました。相手の気持ちを気にせず、自分の思ったことを真っ直ぐ貫こうとするところ」  先輩の顔が、「褒めてんのかけなしてんのかどっちだ!?」という複雑な顔をしている。 「尚親だって好きだったと思います、淡雪の真っ直ぐにぶつかってくるところ。淡雪も先輩も、自分に正直なところが素敵だなって思ってたのに……今の先輩はそうじゃない!」 「……」  先輩は口元を掌で覆って、暫く何かと葛藤しているようだった。押し黙ったまま、瞳が小刻みに揺れて落ち着かない。私は辛抱強く先輩の次の言葉を待った。 「じゃあ言うけど、お前さぁ……どうして雲珠姫の夢見たの黙ってた? ショウって占い師のことも」 「え?」 「まぁいいや、そんなのは。お前が言う素敵な俺? ってのは、そんなこと気にしないようだしな」 「?」  何かを覚悟したように、先輩は口元から降ろした掌をこれでもかという程握りしめる。その緊張感が伝わってきて、私の鼓動も徐々に速くなる。 「淡雪の恨みの正体なんて本当は、わかりきっていたんだ。淡雪が辛かったのは、自分だけ実家に追いやられた事じゃない。ただ……」 (ただ?)  心の中で先を促しているのを見透かすように、先輩は私の瞳を静かに見つめ返した。 「尚親の傍にもっと居たかった、それだけだ。小虎丸と一緒に暮らしたかったのだって、元を正せば尚親がこの世から消えたのに、奴の忘れ形見である小虎丸とも一緒に暮らせないなんて、とても耐え難かったからだ」
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