6.告白

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 先輩は腕の隙間から、どうにか私の表情を読み取ろうとしていたみたいだけれど、そこからはさすがに私の顔は見えない。しかし、先輩の脇腹に密着している私の胸からはきっと、高速に動く鼓動が伝わってしまっているだろう。 「これってもしかして……直緒も俺のことが好き?」 「……」  返事はしたくない。でも先輩から離れたくもない。 「お~い。直~緒~」 「……」  聞こえないフリをしてみる。でも私の気持ちがバレていないはずがない。先輩は人より勘が鋭いのだから。 「直緒ばっかズルくないか? 俺も直緒を抱き締めたいんだけど」  そう言われた瞬間、思わず腕の力が緩んでしまい、その隙に先輩は上体を起こして私の顔を両手で包んだ。 「捕まえた」  そう言った先輩の(てのひら)が、思ってた以上に冷たくて驚いた。それは多分、先輩の掌が冷たいのではなく、私の両頬が異常に熱いのだと気づく。先輩から見える私の顔はきっと、真っ赤なんだろう。  視線から逃れようとして彼の両手首を掴むけれど、意地悪な先輩は当然離してはくれなかった。願わくば、私の顔色が夕日のオレンジ色に紛れているのを祈るばかり。 「抱きしめるのとキス、どっちがいい?」 「!? 調子に乗らないでください!」 「じゃあ、好きって言えよ」 「な!?」 「あと五秒な。五・四・三……」 「す、好きです!」  「よくできました」と呟いて、先輩は私の唇を奪った。驚いた先輩の両手首にグッと力を込めるけど、瞳が閉じるのと同時にその力も抜けていく。  長いような、短いような……柔らかい先輩の唇がゆっくりと離れて、その甘い時間は呆気なく終わりを告げた。 「『じゃあ』って何だったんですか?」 「自分に正直なとこが素敵なんだろ?」 「もう!」  私がそっぽを向くと、「拗ねるなよ」と笑いながら先輩は私の頭を無造作に撫でた。 (あぁ、この感触だなぁ)  撫でたその手がとても温かくて、私は何故だか泣きそうになる。 「何かもう……ぶっちゃけ、尚親の死の真相なんかどうでもいいんだよな」 「はい!?」 「直緒さえいれば、前世の記憶になんか負ける気しねぇよ」  そう言って目を細める先輩を見て、私は自然と笑顔がこぼれた。……でも、 「私は……淡雪の為にも先輩の為にも、そして何より自分自身の為にも、尚親の死の真相が気になるので、やっぱり真相を探しませんか?」  先輩は少し驚いたようだったけれど、「しょうがねぇな」と言ってベンチから立ち上がり、 「付き合ってやるか」 と言って私の右手を取って立たせた。そして私達はそのまま手を繋ぎ、最寄り駅へ向かってゆっくり歩き出す。  何だか始めとは逆になってしまったなと呆れてしまうけど、それでも先輩の手の温もりに「まぁいいか」という気になった。  輪廻の輪は巡り(めぐ)る。偶然蘇った前世の記憶によって、私達は前世の伴侶と今世でも縁を結ぶことができた。  その記憶が、これからの私達にどう影響を及ぼすのかはわからない。でも、悲運な別れ方をした前世の二人には教えてあげたい。  来世でまた巡り逢えるよ、と。 ~第一章(響介編)完~
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