4.占い師ショウの正体

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4.占い師ショウの正体

「よぅ。今日どした?」  突然、響介先輩が私の顔を覗きながら訊ねた。県立図書館の窓から差し込む傾きかけた日の光が、私の間の抜けた顔を照らし出す。 「へ?」 「やっぱおかしいな、今日の直緒。あんまり俺と目も合わせないし」 「そ、そんな事無いですよ?」  やはり先輩は鋭い。今日は先輩に会ってからというもの、自分の心臓が心なしか速めに動くのを感じていた。正直に言うと、図書館で会う前に校内で見かけた時からだが。  それは、昨夜見た尚親の夢のせいだとわかっている。だからこの異常は一時的なもので、もう少しだけ先輩と一緒に居ればきっと元に戻るハズ……そう信じて今はただ、先輩に動揺がバレないよう平静を装っていた。 「そう言えば昨日さぁ、直緒に淡雪と尚親の馴れ初め話しただろ?」 「う、うん」 「あの後俺、その頃の夢見ちゃってよ」 「えっ!?」  過剰に反応しすぎた!? と、思った時には既に遅かった。罠にかかったな? というようなしたり顔で、先輩は再び顔を覗き込む。 「直緒も昨日の夜、前世の夢見たんだな?」 「み……見て無いです」 「嘘ばっか。ちなみにどんな夢だった?」  見て無いと言った言葉は見事にスルーされ、興味津々といった様子で先輩は返事を待っている。顔が近い……。 「あれ? 顔真っ赤っかにしちゃって。もしかして直緒ちゃん……同衾(どうきん)する夢でも見ちゃった?」 「ど、ドウキン?」 「ん? 知らない?」  キョトンとした目で見返すと、先輩は耳元に近づいてきて諭すように囁く。 「男女が~、同じ布団で~、セック……」  全部言い終わる前に両手で耳を抑え、先輩から身を引いて抗議の視線を送った。それにも構わず先輩は、 「可愛いな」 と、漏らして笑っていた。驚きで硬直していると、急に羞恥が込み上げたのか、すぐに先輩は私の頭を無造作に撫で回す。 「ちょ……やめてください!」 「で? 本当は何の夢見たんだ?」  しつこい。きっと言うまで訊く気だろう。諦めて降参するしかなかった。 「淡雪が……尚親の命を救ってくれた時の夢、です」 「俺が見たのとほぼ同じだな。じゃあ、長野で尚親が淡雪に恋してたかどうかわかったか?」 「……」  そこは即答出来なかった。 「何で黙るんだよ」 「いやだって……」  確かに夢で尚親は、命を救ってくれた淡雪を大事そうに抱きしめてはいたが……。私は、尚親が気にしていた雲珠姫の存在を思い出していた。 「あの事件があってから、尚親と淡雪は凄く仲良くなったんだぜ? 数年後には長野で結婚するし」 「え!?」 (あの後数年は、上地谷に帰れなかったんだ……) 「俺が思ってる以上に、直緒は前世の夢見て無いんだな」  少し呆れたような、それでいて残念そうな呟きが聞こえた。しかし本当の事だから仕方ない。私は小さく「うん」とだけ返事をする。 「じゃあ逆に訊くけどさ。そんだけ前世の夢見て無いのに、何で尚親が自分の前世だって気づいたわけ?」 「それは……ある人に教えて貰ったから」 「ある人?」 「ショウっていう、前世占いの占い師さん」 「前世占い!?」  思っていたよりも素っ頓狂な声が出てしまい、先輩は思わず両手で自分の口を塞いだ。図書館は静かに利用しなければならない。周りに注目されていないかどうか確かめると、幸い誰もこちらを見ていなかった。
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