2.捜査開始

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2.捜査開始

 放課後。下駄箱で待っていた浅井先輩に大人しく捕まると、私達は早速県立の図書館へ向かった。最寄り駅から三駅離れたところに県立図書館はある。私立図書館とは違い、蔵書の規模が大きいので自然と期待は高まった。 「蔵書が多いのはいいけど……見るべき本も多そうだな……」  建物に一歩足を踏み入れると、その広さと蔵書数に圧倒される。この県立図書館は建て替えたばかりだと、最近のローカルニュースで報じていた。新しい書籍棚に蔵書が整然と並べられ、それを新品の蛍光灯が照らし出していて全体的に眩しい。書籍独特のインクの臭いと、建て替えたばかりの新築建造物独特の匂いが混じり合い、鼻をついた。  平日のこの時間、市立図書館同様に利用者は少なくない。敷地が近いせいか、県立大学の学生らしい利用者が多く目に付く。逆に制服を着た私達のような高校生は、あまりいないようだ。  私達はまず館内案内図を探し、棚がどう配置されていてどの棚に何のジャンルの本が置いてあるのかを確認した。棚の数は私立図書館の比ではない。そして目当てである郷土資料の棚は、結構な広範囲を占めていた。 「今日だけじゃ見終わらないかもな。まぁいいや、とりあえず片っ端から見てこうぜ」  先輩は目当ての棚へ向かうと端から分厚い本を五冊ほど抜き取り、二冊だけ私に手渡して、テーブル席へと向かう。指四本分はあろうかというこの分厚い本、この中から戦国時代の遠江国の情報だけを探していく。  郷土資料というのは、その土地の現在までのありとあらゆる時代の資料が載っているので、その中から戦国時代の情報をピックアップしていく事になる。 「こんなに頁数が多いなら、あいつにも手伝わせれば良かったか……」  資料を見始めて三十分ほどが経過した頃、隣に座る先輩からポツリとそんな声が聞こえた。 「あいつって誰ですか?」 「何だっけ……三沢っつったっけ?」 「それは駄目です!」  ピシャリと言うと、その必死さが可笑しかったのか先輩はフッと笑む。 「何で俺には明かして、あいつには隠しとくんだよ?」 「それは……」 「別にいいけどね。手伝っては欲しいけど、前世では尚親を取り合う仲だし」  そう言われて、何故だか顔に熱が集まるのを感じた。自分ではなく、前世のことを言われているハズなのに。 「おい、何赤くなってんだ。取り合ったのは尚親で、別にお前じゃないぞ?」「わ、わかってますよ」  赤面した自分の顔を見られたくなくて、先輩から顔を背けた。すると先輩は突然、私の頭をグシャグシャと荒っぽく撫でる。 「ちょ……髪の毛グシャグシャになるじゃないですか! 何するんですか!? もう」 「何でだろーなー。ほら、真面目に探せよ」  乱れた髪を直しながらも先輩の顔を盗み見ると、何故だか満足げな表情がそこにはある。 (何か悔しい)  そう思いながらも、この表情からは尚親や私に対する恨みを感じないので、「まぁいいか」とも思えた。
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