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2-1 蹂躙
大江賢治は、ゆっくりと目覚めた。
(何処だ……ここ)
八畳程の薄暗い和室の真ん中に、布団を敷いて寝かされている。知らない部屋だった。
上体を起こす。その時初めて、賢治は自分が衣服を着替えさせられていることに気づいた。白い長襦袢一枚を素肌の上に纏っているだけだ。下着すらつけていない。ずいぶんしどけない格好にさせられている。
と。襖の向こうで、足音が聞こえた。誰か来る。賢治は反射的に立ち上がった。
襖が開いた。
入って来たのは、昨日賢治の前に姿を現した、焔と名乗った男だった。着流しの和服に身を包んでいる。
「目覚めていたか、賢治」
男が自分を見る眼に、理由は判らないが危険なものを感じる。賢治はそろ、と後ずさった。逃げる態勢を整える。
間合いを取りながら横に移動する。男が近づいて来る。横をすり抜けられるか? いや、隙がない。そのまま部屋の縁に沿って逃げ回る。
後ろ手に、襖の感触。引手の場所を探り、開こうとする。と。
突然、がくんと手足の力が抜けた。
(えっ!?)
なすすべもなく、賢治はその場に倒れ込んだ。手も足も、感触はあるのに動かない。
(何だこれ……!?)
身動きの取れない賢治の体に、男の手がかかった。軽々と彼を抱き上げ、布団の上に寝かせる。
帯を解かれ、長襦袢の前をはだけられた時、賢治はこれから自分が何をされるのか、はっきりと理解した。欲を孕んだ眼で見据えられる。
「嫌だ……」
喉の奥から、絞り出すような声が上がった。
「嫌だあっ!!」
悲痛な叫びは虚しく部屋に響いた。男がのしかかって来た。
蹂躙が、始まった。
男の手が、唇が、まだ成長しきっていない若木のような肢体を這い回り、容赦なく開き、暴いて行く。
手足の利かない賢治は、せめて男の手から逃れようと身をよじったが、かえって男の劣情を煽る結果にしかならなかった。
白い肌には点々と鬱血の跡がつけられている。すでに一度達せさせられ、下腹部は白濁で汚れている。口からは喘ぎと共に、繰り返し「嫌だ」「やめろ」という言葉が漏れていた。
もう、体の隅々まで、見られていない場所も触れられていない場所もない。
男はローションを指に取り、最も奥まった場所に塗り込めた。何か薬品でも入っているのか、塗られた場所から熱くなって来ている。
「や……あっ」
後ろに入れられた指が、身体の中を探った。指は二本、三本と増やされ、その部分を男を受け入れる場所に造り変えようとする。指の一本が前立腺をかすり、賢治の身体が震えた。探り当てた場所を確かめるように指が動かされ、いやらしい水音を立てて羞恥を煽る。
やがて指が引き抜かれたかと思うと、もっと圧倒的な質量を持ったものが身体の中へ押し入って来た。悲鳴に近い声が上がった。内蔵をえぐるような圧迫感に、思わず涙がにじんだ。
男は自身を賢治の中に埋め込むと、その最奥を穿ち始めた。容赦なく打ちつけられ、揺さぶられる。先程探られた場所を擦られる。
「やっ……あっ……!」
抽挿を繰り返しながら、男は賢治のものを握り込んだ。上下に扱かれる。後ろを貫かれ、前を煽られ、身体だけが意識を裏切って暴走して行くようだ。
体内に穿たれた楔の存在感が増して行く。限界が近い。
「あ、……あ、ああっ!」
程なく、男の精が彼の中に放たれた。それを感じながら、賢治の意識は遠くなって行った。
気がつくと、もう明るくなっていた。男の姿はなかった。
やはり昨夜と同じ和室で、同じように長襦袢一枚着せられて布団に寝かされている。
(手が……動く)
何とか上体だけを起こしてみる。身体は綺麗に清められていたが、昨夜のことが夢でも何でもなかったことは、身体に残る痛みと鬱血の痕が証明していた。
昨夜されたことを思い出し、賢治の身体が震えた。震えを抑えるように、自分の身を掻き抱く。
(逃げなきゃ)
一刻も早く、ここから逃げたかった。家族や仲間のいる日常に戻りたかった。
辛い身体に鞭打ち、立ち上がる。ふらつく足で、賢治は出口と思われる襖に向かった。引手に手をかけようとして、昨夜のことを思い出して手を止めた。
襖なら、外すなり破るなりして出られないか。そう思い、襖の中央辺りに手を伸ばし――襖に触れるか触れないかというところで、足の力が抜けた。
(まただ!)
賢治の手足は再び効かなくなり、賢治はその場に崩れ落ちた。目の前に、動かない自分の手が投げ出されている。よく見ると、手首をぐるりと囲むように、ミミズ腫れのようなものが浮かんでいる。それは細かい文字のようにも、記号のようにも見えた。
外から足音が聞こえた。襖が開く。入って来たのは、やはり焔だった。今はスーツを着こなしている。
「ん?」
焔は転がっている賢治の傍らにしゃがみ込んだ。
「逃げようとしたな? ……悪い子だ」
賢治は焔を睨みつけた。その視線には、焔への怒りと警戒と、ほんの少しの怯えが見えた。
「おまえの手足には禁術をかけてある。この部屋を出ようとすれば“禁”が発動し、おまえの手足はおまえの意志では動かなくなる。……やはり、躾け甲斐がありそうだな、おまえは」
焔は賢治の身体を仰向けに寝かせた。賢治は唇を噛んで顔をそむけた。
「この状況を呪うなら、おまえの母親の血筋を恨むがいい」
焔の手が、長襦袢の中に忍び込んで来る。賢治の身がすくむ。虚勢を張るように、賢治は訊いた。
「母さんの……血筋?」
「そうだ。おまえの母の血筋――“秋月”は、鬼女の力を継ぐ家系だ。“秋月の女”は十八になると鬼になると言う」
語りながら、焔は手を賢治の肌に這わせていた。
「本来なら女が継ぐべき力だが――おまえは唯一、男の身でその力を受け継いだ」
乳首を指先でこね回す。
「私はおまえの力を目覚めさせ、おまえを鬼と変えて我が眷属とするつもりだ。……その為に」
焔の手はだんだん下の方へ移動して行った。内股をするりと撫で上げられる。
「おまえは七日七夜、ここで女として抱かれねばならない」
「な……っ」
七日七夜。少なくともそれだけの期間、賢治はこの男の好きなようにされるということだ。いや、もしかするとその後も。
「我々は七夜籠と呼んでいる。その間、せいぜい淫らに抱いてやろう。──おまえが誰のものか、その身体に教え込む為にな」
動かない足を、左右に大きく開かせる。その間に、焔は顔を埋めた。自身を口に含まれ、賢治は息を乱した。
舌で先端を舐め回され、軽く歯を立てられる。さらに男の手がその部分を扱き、賢治のものは見る間に大きく育てられて行った。
「……っ」
もう少しで達する──という瞬間、根本を強く握り込まれた。達したくても達せられないもどかしさに、思わず身じろぎする。
「どうして欲しい?」
男の、揶揄するような声。
「どうして欲しいか、おまえの口から聞かせてもらおう」
賢治は目を閉じ、拒否するように首を振った。
「言わなければこのままだぞ」
萎えかけると、再び舌や手で煽られる。行き場のない熱が、身も心もじりじりと追い詰めて行く。
「……か……せて……」
賢治の口から、ついに小さい声が漏れた。
「いかせて……!」
固く閉じた目に涙をにじませながら。
獲物の心が折れた感触に、焔はにやりと笑った。縛めていた指を緩め、強く扱かれる。待ちかねたように吐き出された若い精を手に取り、焔は賢治に見せつけるように舐めた。
「さて、こちらも満足させてもらおうか」
焔は自分のベルトを外し、ズボンの前をくつろげた。
明るい朝の光の下で、賢治は再び犯された。
──それから。焔自身の言った通り、賢治は昼夜の区別なくこの部屋を訪れる焔に、幾度となく犯されることとなる。
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