2-2 雌伏

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2-2 雌伏

 行きつけのカフェのテーブルに、元星風演劇部の三人が集まっていた。木野友則、戸田基樹、河村朝子。三人とも、一様に暗い表情をしている。あれから三日経っているが、大江賢治の行方はまだつかめていない。  友則は、タブレットで何やら熱心に見ていた。時々画像を拡大したりしている。 「何見てんださっきから」  基樹が訊いた。 「んー……ちょっとな」  友則は生返事をして、一枚の紙を取り出した。端正だが、何処か不穏な雰囲気の男の肖像が描いてある。 「それは?」 「芦田焔の顔」  友則の答に、二人は驚いてその絵を見た。 「次美が見た顔を、県警の似顔絵捜査官の人が描いた奴だよ。そいつを武田さんに横流ししてもらった。あっしーとゆかりんも、特徴つかんでるって言ってる」  その時、店の扉が開いて、星風の制服を着た小柄な少年が入って来た。友則達の姿を見つけ、近寄って来る。 「木野さん!」 「おう、工藤ちゃんか」  友則は顔を上げた。  星風学園高校演劇部部員で友則達の後輩、工藤行彦(ゆきひこ)は三人に向かって頭を下げた。カバンの中から、数枚のディスクを取り出す。 「頼まれてたもの、DVDに焼いて来ました。これです」 「さんきゅ」 「何なの、それ?」 「三年前くらいからの公演の写真のうちで、観客も含めたなるべく大勢の人間が写ってる奴。工藤ちゃんに選んで持って来てもらった」  行彦は演劇部で、公式ホームページやブログの更新を担当している。過去の写真データも管理しており、その中から目ぼしい写真をDVDに焼いてもらったのだという。 「大変でしたよ、量が多いんで」 「悪かったな、工藤ちゃん。そのうち埋め合わせはするから」 「つーか、何でそんなもん必要なんだよ?」 「何となく、気になることがあってな。これが何かの役に立つのかはまだ俺にも判らんが、どうしても引っかかるんだ」  友則は真剣な眼で言った。何かは判らないが、彼は何かをつかもうとしている。それが果たしてこの現状を打開するものになるのかは──恐らく友則自身にも判ってはいないが、彼が動いていること自体が周りの者に何処か安心感を与えていた。静かに見えても、木野友則は止まってはいない。 「……大江先輩、まだ見つからないんですか」  行彦がぽつりと言った。 「大丈夫よ。警察の人達も探してくれてるし」  なだめるように、朝子が言った。実際に捜索にあたっているのは、警察に加えて“天地”の配下の者達、そして芦田風太郎だ。“天地”が動いていることを知っているのは友則達三人と三枝次美だけである。大江賢治が何故拉致されたのかなんて、他の者に言えるはずもない。 「僕、大江先輩の演技に惹かれて演劇部に入ったし、大江先輩のこと本当に尊敬出来る人だと思ってます。今頃、先輩が誰かに酷いことされてないかって、ほんと心配なんです」  酷いことは──確実にされている。が、それをこの後輩に言うのは行彦にとっても賢治にとってもあまりにも酷だ。 「だから、もしこの写真が先輩の為に何か役に立つなら、絶対役立ててください。お願いします」  行彦は深々と頭を下げた。 「判ってるさ」  友則は答えた。自信に満ちた声だった。行彦はもう一度頭を下げ、店を出て行った。その姿を見て、基樹が友則に言った。 「……思い出すな」 「……ああ」  行彦を見ていると、友則を追いかけて演劇部に入って来たばかりの頃の賢治を思い出す。だからこそ。 「知らなくていいことって、あるよな」 「あるな」 「──可哀想なのは、次美ちゃんだわ」  朝子が言った。 「好きな人がどんなことになっているのか、ある程度知ってしまっているから」 「ああ……」  次美は、表面的には平静を保って生活している。が、賢治への心配で胸が張り裂けそうになっているのは、友則達にはよく判る。 「で、木野。その写真、何に使うつもりだ」  友則は手の中のディスクを見つめた。 「こいつな。……賢を探す直接的な手がかりにはならない。──だが、相手を討つ武器の材料になる可能性はある」  反撃の刃は、まだ形にもなっていない。しかし、友則の内には研ぎ澄ます用意はいつでも出来ている。そしてこれは、必ず刃を形作る要素になると、友則は直感していた。  そこへ友則の携帯の着信音が鳴った。メールが一件。内容を確認して、友則は顔をしかめた。 「(わり)ィ、ちょっと行くとこが出来た」 「どうした?」 「あっしーがやらかしたらしい」
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