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「ねぇ、お母さん。
どうしてジュナール族の人たちは贅沢な暮らしをしているのに、僕たちはこんなにも貧しい暮らしをしているの?
僕たちはジュナール族のようにはなれないの?」
チェスターは粗末な家の中で、悲しそうな声でそう話す子供の頃の自分を見ていた。
母のマリアはそんな子供の頃の自分の言葉に困惑していた。
チェスターは過去の世界にいる自分に気づいて、自分は夢を見ているのだと感じていた。
それも思い出したくもない悲しい夢。
チェスターは何度、母に訊いただろう?
ミルド族が貧しい理由を。
ジュナール族がミルド族から富を奪っていく理由を。
同じ人間に生まれたはずなのに、ミルド族とジュナール族は全然違う。
それがチェスターには許せなかった。
「お母さん、僕はミルド族がジュナール族より劣っているなんて認めないよ。
ミルド族のみんながジュナール族の顔色を伺って、貧しい生活を受け入れるなんて許せないよ。
もしもそれが僕たちの未来のすべてだとしたら、僕たちの未来は閉ざされている。
僕はそんな運命を絶対に受け入れない!」
母にそう言った子供の頃の自分の気持ちは、今も少しも変わっていない。
そうだ、自分はずっと悔しかったんだ。
明るい未来が見えない運命を押しつけられたことを。
自分はこの暗闇の世界から抜け出したいって、心の底から願っていたんだ。
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