81人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
「ねぇ、お母さん。
どうしてジュナール族の人たちは贅沢な暮らしをしているのに、僕たちはこんなにも貧しい暮らしをしているの?
僕たちはジュナール族のようにはなれないの?」
まだ六歳のチェスターが母のマリアそう言うと、マリアは今の話を聞いていた者がいないか辺りをたしかめ、諭すようにチェスターに話しかけた。
「ジュナール族の人たちは、私たちミルド族よりも偉いのよ。
だから私たちは、ジュナール族のようにはなれないの。
わかるでしょ、チェスター」
マリアは困惑の表情を浮かべチェスターにそう言ったが、チェスターはマリアの言葉に納得しなかった。
「わからないよ、お母さん。
だってジュナール族もミルド族も同じ人間でしょ?
それなのに、ジュナール族ばかりが偉いなんておかしいでしょ?」
マリアはチェスターのその言葉を聞き、さみしげな表情を見せると、チェスターの青い瞳を見つめ、チェスターに話しかけた。
「私たちミルド族は、ジュナール族との戦いに破れたの。
今のミルド族はジュナール族に支配されている。
もうこの運命には逆らえないのよ」
母が言ったその言葉に、まだ幼かったチェスターは心を痛めた。
ジュナール族に支配されなくちゃいけないミルド族の運命って……。
だとしたら、ミルド族の運命は闇の中に閉ざされているの?
ミルド族は夢も希望も持ってはいけないの?
チェスターは込み上げてくる複雑な感情に涙を流し、その涙を右手で拭うと、母の目を見つめ返した。
最初のコメントを投稿しよう!