プロローグ

2/5
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
「ねぇ、お母さん。 どうしてジュナール族の人たちは贅沢な暮らしをしているのに、僕たちはこんなにも貧しい暮らしをしているの? 僕たちはジュナール族のようにはなれないの?」 まだ六歳のチェスターが母のマリアそう言うと、マリアは今の話を聞いていた者がいないか辺りをたしかめ、諭すようにチェスターに話しかけた。 「ジュナール族の人たちは、私たちミルド族よりも偉いのよ。 だから私たちは、ジュナール族のようにはなれないの。 わかるでしょ、チェスター」 マリアは困惑の表情を浮かべチェスターにそう言ったが、チェスターはマリアの言葉に納得しなかった。 「わからないよ、お母さん。 だってジュナール族もミルド族も同じ人間でしょ? それなのに、ジュナール族ばかりが偉いなんておかしいでしょ?」 マリアはチェスターのその言葉を聞き、さみしげな表情を見せると、チェスターの青い瞳を見つめ、チェスターに話しかけた。 「私たちミルド族は、ジュナール族との戦いに破れたの。 今のミルド族はジュナール族に支配されている。 もうこの運命には逆らえないのよ」 母が言ったその言葉に、まだ幼かったチェスターは心を痛めた。 ジュナール族に支配されなくちゃいけないミルド族の運命って……。 だとしたら、ミルド族の運命は闇の中に閉ざされているの? ミルド族は夢も希望も持ってはいけないの? チェスターは込み上げてくる複雑な感情に涙を流し、その涙を右手で拭うと、母の目を見つめ返した。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!