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「おい、クソガキ。
何のマネだ?」
チェスターに剣を向けられたリンジーが低く冷たい声で、チェスターに話しかけた。
「オレはお前の命の恩人だぜ。
恩知らずにもほどがある」
「リンジー・ライアン。
お前はミルド族の同胞の悲しみを知っているか?
ミルド族の未来にどれほどの闇があるのか知っているか?
ジュナール族の犬であるお前に、オレたちの悲しみがわかるのか?」
「クソガキが言いたいことを言いやがる。
手負いのクソガキがこのオレ様に剣を向けてなにができる?
身のほどを知るんだな」
リンジーはそう言うと、風のような速さでチェスターの方へと踏み込んでいった。
そして一瞬でチェスターの剣を払いのけ、チェスターの剣は宙に舞った。
チェスターの剣は無情にもチェスターの右手から離れて、地面へと突き刺さった。
「お前の実力はそんなもんだ。
オレ様に逆らうのは十年早い」
弱き者は言葉を失い、強者によって支配される。
何度も見てきた弱者の現実を、今ここでリンジーに見せつけられたチェスターは悔しくて涙していた。
そしてチェスターの胸の内に押し込めていた感情が言葉となって、リンジーへと吐き出された。
「オレがカサドラの森にいるにいるのは強くなるためだ。
オレはいつか強くなって、ジュナール族を打ち破る。
そしてミルド族の同胞をジュナール族から解放して、ミルド族に夢と希望をもたらすんだ。
それが、ジュナール族の犬には決してわかるはずのないオレの夢だ。
笑いたければ笑えばいい。
オレは今よりも強くなって……」
チェスターはそこまで言うと、言葉をなくして泣き崩れた。
リンジーはそんなチェスターを見下ろし、チェスターを見つめた。
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