実力の違いの中で

2/8

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
一週間後、チェスターは剣を背中に背負い、カサドラの森へとやってきた。 リンジー・ライアンが剣を教えてやると言った言葉を完全に信じているわけではなかったが、それでもチェスターはリンジーの言った言葉を信じたかった。 (リンジーにはきっと、オレたちが知っている冷酷な顔とは別な顔が存在している。 オレは自分の直感を信じる。 リンジーは心の中になにかを隠している) リンジーがタイガーバードからチェスターを助けたのはなぜなのか? リンジーがチェスターを殺さなかったのはなぜなのか? ジュナール族の犬であるはずのリンジーが、チェスターという無謀な少年に肩入れする理由はなにか? チェスターは様々な疑問を胸にリンジーとの約束の場所に立っていた。 そして、チェスターがその場所で待つこと一時間、リンジー・ライアンは剣を片手に現れた。 鋭く冷たい目をチェスターに向け、痩せた人相の悪いリンジーの顔には、少しの笑みすらなかった。 そんなリンジーの様子は、チェスターの味方ではなくて敵にしか見えなかった。 チェスターはそんな危険な雰囲気のリンジーに剣を握って身構えた。 「よく来たな、チェスター・ロー。 オレが剣を教えてやる。 だが、オレはお前の命を保証しない。 死にたくなければ本気でこい」 リンジーはそう言って、手にした剣をぶらりと地面に向けて、無防備な格好でチェスターの前に立ちはだかった。 そんなリンジーにチェスターは、胸の内にある疑問をぶつけていた。 「なぜオレに剣を教える? お前はジュナール族の犬なはずなのに」 「知りたいか、チェスター」 リンジーはそう言うと、ゆっくりと剣を構えた。 「その答えを今から剣で教えてやる。 お前はその剣で、オレから答えを見つけてみろ」 リンジーはそう言ってチェスターに斬りかかった。 チェスターはそんなリンジーの剣を間一髪で受け止めた。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加