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「粋のいいミルド人じゃのう。
良かろう。
貴様に剣を渡してやる。
長年の憎しみを晴らしたければ、その剣でワシを斬れ」
不気味に笑うイシュメルは、チェスターとの一対一の対決を簡単に受け入れていた。
おそらくイシュメルは、自分がミルド人の若者に負けることを想像すらしていない。
これから始まる二人の戦いは、イシュメルが自分の力を誇示するためのパフォーマンスだ。
そうとは知りながら、チェスターの体の血はたぎっていた。
もしも自分がジュナールの死神イシュメルを斬ったなら、同胞たちに希望が生まれる。
そして、やがてその希望が同胞たちの中で広がっていけば、ミルド人はきっとジュナール族からの支配を逃れ、独立国家を作るだろう。
ジュナール族の兵士がチェスターに近づいてきて、一本の長剣を手渡した。
それと同時に統括棟の庭園に集まっていたすべての者たちが、チェスターとイシュメルから遠ざかった。
死神の鎌を手にしたイシュメルは不気味であったが、この痩せこけた老人が本当に強いかは未知数だ。
ジュナールの犬になるくらいなら、自らの命を捨てると決めていたチェスターにとって、イシュメルとの一対一の戦いは希望そのものでしかなかった。
(万に一つの確率かもしれないが、オレはこの場で奇跡を起こす)
チェスターはそんなことを思いながら、剣を強く握りしめ、憎しみが溢れる青い瞳でジュナールの死神をにらんでいた。
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