イシュメルに剣が届けば

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統括棟の庭園で誰も予想していなかった緊張の場面が訪れていた。 イシュメルに服従の洗礼を受けるミルド人に選ばれたチェスターは、命を捨てる覚悟でイシュメルに戦いを申し込んだ。 チェスターはジュナールの犬になるくらいなら、自らの命を捨てると最初から決めていた。 だからチェスターはイシュメルとの命をかけた戦いにも、少しの迷いも感じてなかった。 対するイシュメルは、チェスターの申し出を断り、チェスターを聖なる部屋に連れていくこともできたが、チェスターの申し出をあっさりと受け入れ、チェスターに剣を持つことさえも許していた。 白く長い髪、紫色のマントに白いシャツ、そして血色の悪い顔の痩せこけた老人であるイシュメルは、ジュナールの死神の呼び名の通り、本物の死神のように見えてしまう。 右手に持っている大きな死神の鎌で、イシュメルは今まで何人の命を奪っているのだろう。 チェスターと対峙しているイシュメルは、ジュナール族のナンバー2の称号通り実力ある異能力者であると想像できた。 しかし、枯れて朽ち果てる寸前の木の枝のようなイシュメルが、今でもなおジュナール族で最強クラスの実力があるとは限らない。 もしも自分が握りしめているこの長剣が、イシュメルの首を斬り落とせば、ミルド人の中に希望が生まれる。 あのジュナール族のナンバー2でさえ、無敵ではないのだとみんなが思う。 そしたら、ミルド族はジュナール族に支配される運命の下位種族ではないのだとみんなが気づくに違いない。 長剣を握りしめたチェスターがその青い瞳でイシュメルをにらみつけているとき、イシュメルはしゃがれた声でチェスターに話しかけてきた。 「青い瞳のミルド人。 貴様の名前を聞こうじゃないか。 名も知らぬ若者を倒してみても、少しもおもしろくないからのう」 チェスターはそう言ってきたイシュメルに声を荒げてこう答えた。
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