イシュメルに剣が届けば

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「無駄口を叩くな、死神イシュメル! 地獄に落ちていくお前に名乗る名などない!」 チェスターはそう叫ぶと、イシュメルに向かって風のような速さで走り出した。 チェスターが得意とするのは、電光石火の連続攻撃だ。 そしてチェスターは、あの氷のリンジーとも互角に渡り合った剣の達人でもあった。 チェスターは自分の剣の実力を信じ、イシュメルの枯れ木のような痩せた体を自らの剣で斬り刻もうと剣を素早く振りかぶった。 だがそのとき、イシュメルの体を包み込んでいるドス黒いオーラがさらに広がり、そのオーラの中から飛び出してきた黒い手が、チェスターの剣を受け止めた。 「な、なに!?」 イシュメルを覆っているドス黒いオーラから手が飛び出してくることも、自分が得意とする高速の剣が簡単に受け止められてしまうことも、チェスターの想像外のことであり、チェスターは呼吸を乱して戸惑っていた。 そんなチェスターが剣を受け止めて放そうとしない黒い手を振り払おうと、強く力を込めてみたが、その黒い手はピクリともせずにチェスターの剣を放さなかった。 「見たか、青い瞳のミルド人。 これがワシの異能の力、ダークシャドーじゃ。 貴様のごとき弱者には、ワシが直接に手をかける価値もない」 チェスターが絶望の中でイシュメルの言葉を聞いていたとき、イシュメルの周りの黒いオーラから複数の黒い手が飛び出してきて、チェスターの体を取り押さえた。 そしてそのとき、チェスターの右手から無情にも剣がこぼれ落ち、チェスターはイシュメルと戦う術を失っていた。
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