イシュメルに剣が届けば

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そう言ったイシュメルのしゃがれた声が、チェスターの胸に絶望を運んできた。 あのリンジーですら抗えなかった服従の洗礼に自分は屈してしまうのだろうか? ジュナール族を憎み続けてきた自分が、右肩に『J』の焼き印をされ、ジュナール族に従順であるように洗脳されてしまうのだろうか? チェスターは自分の体の自由を奪っている黒い手を払いのけようと必死になって力を込めたが、その黒い手を払いのけることはできなかった。 「その反抗的な目、ワシは嫌いじゃないぞ。 じゃがな、その反抗的な目も自分の無力さを知り従順になる。 貴様にもミルド族がジュナール族の下位種族であることをその身を持って教えてやろう」 「ふざけるな!」 まるでクモの巣にかかってしまった虫のような状況のチェスターが、イシュメルをにらみ言葉を返した。 「お前は力によって支配されている人間の悲しみや憎しみを知らない。 力によって奪われた夢や希望の数を知らない。 いつの日か、ミルド族の積年の恨みがジュナール族を打ち破るだろう。 死神イシュメル! そのときお前はミルド族の偉大さを知るだろう」 チェスターがそこまで言い終えると、チェスターの体を取り押さえていたたくさんの黒い手が、チェスターの体を高く持ち上げ、そこから勢いよく地面へと叩きつけた。 チェスターは頭から地面に叩きつけられ、その衝撃と激痛でイシュメルに返す言葉を失っていた。 「身の程を知らぬのう、青い瞳のミルド人。 貴様の言葉は妄想じゃ。 ミルド族の人間がジュナール族に逆らうなど千年早いわ」
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