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プロローグ~サヤの街
ほんの気まぐれだった。
中学時代は、よく訪れていたこの場所。
サヤの街の中心には、小さな川が流れている。
川沿いに蔵が立ち並ぶ一角があり、小江戸を謳って観光スポットになっていた。
川には遊覧船もある。
と言っても、小さな川に浮かぶ小さな木舟。
船頭さんが竿をさして、ゆったりと案内してくれる遊覧船だった。
遊覧船が下ってくる境を超えた辺りに橋があり、その橋の袂には公園がある。
子どもが遊べる遊具がある一角と、ちょっとした催し物ができる広場。
そして、川を眺めることができるベンチが、遊歩道沿いにいくつか。
そのうちの一つのベンチが、サヤの定位置だった。
───中学時代までは。
高校生になってからは、この場所に来るのは初めてだった。
どうして来る気になったのか。
もしも誰かに聞かれても、サヤは答えられない。
答えるとしたら、
「ほんの気まぐれだよ。」
としか言いようがなかった。
いつものように学校で残って勉強をし、いつもならば、このまま家に帰る。
でも、今日はふと、この場所を思い出し、足を向けたのだ。
商店街を歩いていくと、唐突に赤い鳥居が現れる。
そこをくぐって真っ直ぐ行けば、その公園は現れる。
サヤが定位置にしていたベンチは、入口からそれほど遠くない位置にある。
───懐かしい。
ここを毎日のように訪れていたのは、ほんの半年ほど前までのことなのに、その日々はサヤにとって、もう遠い存在になりつつあった。
ベンチに腰掛け、川を眺める。
穏やかな日なので、遊覧船ものんびり平和に運航していた。
時の流れもゆったりしているような、そんな気にさせられる光景だ。
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