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どうしてこの場所を訪れるようになったかは覚えていない。
でも、どうしてこの場所を訪れなくなったかは、鮮明に覚えている。
半年ほど経つけれど、思い出すと胸が痛むのは変わりがなかった。
あの日から、サヤの日常には、あまり色が見えなくなった。
高校に入学し、新しい生活をスタートさせたとはいえ、わくわくするようなことも、ドキドキするようなことも何もない。
毎日決まった時間に登校し、授業を受け、クラスメートと他愛のない話をし、ぼんやり窓の外を眺める。
放課後は教室に残って勉強をし、夕飯に間に合う程度の時間に帰る。
その繰り返しだ。
卒業まで、きっとその繰り返しだ。
サヤは小さくため息をついた。
───こんなところに来たって、何が変わるわけでもないのに。
帰ろうと自分の体の横に置いてあったバッグに、サヤは手を伸ばした。
その時初めて、同じベンチに人が座っていることに気がついて、心底驚き、体をビクつかせた。
いつからいた?
サヤは目を丸くして隣に座っている人を見る。
年はサヤと同じくらい。
着ているものもワイシャツにスラックス。
いかにも制服っぽいいでたちだった。
痩せ形で短髪。
陽に焼けた肌の高校生風の男子だ。
よく見ると、ベルトのバックルが凝ったデザインで珍しい。
でも、この辺りでは見たことのないもので、どこの学校の生徒かはわからなかった。
その男子生徒は、難しい顔をして正面を見つめている。
川の水面でも見ているのかと、サヤは思わず彼の視線の先を追った。
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