12人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
「先生のスマホの待ち受け、佐夜ちゃんが高校の制服を着て撮ってる写真なんだけど……。
桜がバックだから、きっと入学式だよね。」
「待ち受け?」
思いもしない展開にサヤの思考がフリーズする。
「やっぱり知らないんだ。
……って言っても、俺も見せてもらったっていうより、たまたま見えちゃったって感じだからね。
先生、確か、佐夜ちゃんの入学式、行けてなかったよね?」
サヤは黙って頷く。
入学式どころか、中学の卒業式も入学式も、ついでに言えば小学校の卒業式にも来ていない。
行事の中でも大きいと言える行事ですら、亮悟は出席したことがない。
「本当は行きたかったんだろうなぁって、待ち受けに佐夜ちゃんを見つけた時、思った。」
「そんなの……日下部先生の勝手な想像じゃないですか。」
ぼそっとサヤは呟き、日下部から顔を背ける。
どんな話を聞いたって、サヤの父親イメージは揺るがない。
サヤにとって父は、冷たくて、サヤに無関心な遠い存在。
「帰ります。失礼します。」
目を逸らしたまま、日下部へお辞儀をし、執務室のドアを開けた。
「佐夜ちゃん!」
サヤは背中で日下部の声を聞く。
「先生が入学式に行きたかったかどうかは、確かに勝手な想像かもしれない。
でも、先生が佐夜ちゃんを大事に思っているっていうのは、真実だよ。」
サヤは、振り返ることも立ち止まることもせず、執務室を後にする。
まだ固く閉められている応接室の扉にちらっと視線を飛ばし、サヤは事務所から出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!