プロローグ~サヤの街

4/4

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
「嘘だろ? だって、俺のこと見えてんだろ? 声も聞こえてんだろ?」 ゆっくりと視線をサヤに移し、縋るような表情で男子生徒が言う。 サヤはもう一度自分の腕を見て、まだ男子生徒の手が貫通している事実を確認する。 まだまだ暑さが残る時期で、夕方の時間帯になってもちっとも気温が下がらないというのに、サヤは自分の体が震え、寒気を感じた。 「お……おばけ!」 サヤは自分の声がきっかけになったように立ち上がり、カバンを掴むとダッシュで走り出した。 「おい! 待てよ!! おばけはそっちだろ!」 背中に男子生徒の声が届き、追いかけられるのではないかと気が気ではない。 夏の終わりにこんなホラーいらないよ! サヤは全力で商店街を駆け抜けて、自宅へ向かって走っていった。 もう少しで自宅のマンションに着くというところまで来て、ようやく恐る恐る振り返ってみた。 ……誰もいない。 相手はおばけだ。幽霊だ。 もしかしたら頭上を漂っているかもしれないと、はっとして上を見上げてみたが、特に異変はなかった。 息を整えながら、サヤは歩き出す。 さっきの出来事は、本当にあったこと? サヤは別に霊感は強くないし、今までそういう類の体験はしたことがなかった。 相手の姿はしっかり記憶に残ってはいるが、本当に起こったこととも信じられなかった。 幻……なのかな? サヤは首を傾げながら、家の扉を開けた。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加