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「俺としては……おばけの世界に迷い込んだ気分だったんだけど……。
俺の方がおばけなわけ?」
悩まし気な表情を浮かべて、サヤに言うでもなく、独り言を言う様子をサヤは何と言っていいかわからずにただ見ていた。
透けているわけでもないし、足もちゃんとあるけど……。
サヤは自分の手をすっと相手の肩へ伸ばし、貫通してしまう事実にぞっとした。
「うぎゃっ!」
「お前なー!」
男子高校生は、叫びかけたサヤを睨みつけた。
「お、お前って……。私には田端佐夜って名前がちゃんとあるんだから!!」
同様に反発するように言い返したサヤに、男子高校生がむっとした顔でさらに言い返す。
「俺にだってなぁ……。」
何故かピタッと言葉も表情も固まってしまった相手をサヤは不思議に思い、首を傾げた。
「あー。えーっと……。」
男子高校生は歯切れ悪く話そうとする。
「俺の名前は……だな。
ソウっていうんだ。」
最後には、最初の勢いがどこへ行ったのか、ポツリと呟いた。
「ソウ?
どんな字書くの?」
サヤの問いにソウは首を振る。
「名字は?」
やはりソウは俯き、首を振るだけだった。
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