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俺の前で結衣は美羽と手を繋いで病院を出て行く。その姿を見ながら俺は眼から溢れて来る涙を止める事が出来なかった。
再びスクランブル交差点の所に来た。先程と同じ『人混み』が俺達を待っていた。
「凄い人混み! 久し振りに見たわ!」
暫く入院していて『人混み』に慣れて居なかった美羽が声を上げる。
「ママ、これは普通だよ」
病院への向かう道で、この『人混み』を通って来た結衣が当たり前だよと言わんばかりに美羽を見上げて言った。
その時だった。突然、結衣の左手が美羽の右手から引き離された。
「えっ?」
俺と美羽が同時に声を上げた。
結衣は右後ろから走って来た革ジャンの男に抱き抱えられていた。男の右手には包丁が見える。
「お前! 何をして!!」
俺がその男に叫ぶと、その男は立ち止まって振り返った。
そこら中で悲鳴が上がり、一気にその男から『人混み』の人々が離れた。
「煩い! こいつは人質だ!!」
そう言う男を追いかけて数人の警察官が走り込んで来た。
「田川! 逃げられないぞ! その女の子を離せ!!」
その男は警察官の姿を見て激昂した。
「お前ら!! 退がれ!! こいつを殺すぞ!!」
結衣の首に当てられた包丁に力が込められる。
あっと思っていると結衣の首から血が流れているのが見えた。
俺は冷静さを失っていた。アイツを殺してでも結衣を取り返す!!
その時だった。俺より先に、前に居た美羽が動いた。
「娘を離して!! アンタなんかに、結衣を触らせない!!」
俺が覚えているのはその声だけだった。それからの数十秒は俺の記憶に正確に残って居ない。次に俺が見たのは、『人混み』の真ん中で、警察官に取り押さえられた男と・・
同じく『人混み』に取り囲まれ、胸に包丁が刺さって道路に横たわる美羽と彼女に泣き付いている結衣の姿だった。
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