親子

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「恨みを晴らしたい相手がいるんです。人殺しを手伝ってもらえませんか?」  ある日、神妙な顔でFが俺に話を持ちかけてきた。  Fはつい一ヶ月前からこの河川敷に住むようになった、新入りのホームレスである。  彼は元より、強盗や万引きなどの俗に言う盗人の才能を持っていた。加えてその技術を惜しみなく他のホームレスに教えることから、彼らからの信頼も厚かった。もちろん俺もその内の一人だ。彼がいたからこそ、俺達は前よりもずっと安定した生活を送れている。  それ故に、今の発言を聞いた時は驚いた。ここの河川敷に暮らすホームレス達は、あまり新入りの過去を追及しようとしない。その例に漏れず、俺もFの過去を問いただすことはしなかった。  しかし今回ばかりは、事情を訊ねずにいられなかった。何せ人を殺すなどと言った思考は、よっぽどのことがなければ辿り着かないものなのだから。 「実はですね……」  話を聞くとどうやら、恨みの相手はFをホームレスへと追いやった直接の要因らしい。歳はもう三十にもなる女だそうで、小学校高学年にもなる息子と二人暮らしをしているようだ。夫は一ヶ月程前に轢き逃げをされて他界しており、現在彼女は未亡人とのことだった。 「もちろんただとは言わないです。彼女には、夫の遺した莫大な貯蓄と保険金があります。なので家主不在の家に空き巣でもすれば、何かしらのものは出てくるでしょう。それは全て、あなたに差し上げます」 「本気で言ってるのか?」 「はい。男に二言はありませんよ」  胸を張る彼は、どこか緊張しているようにも見えた。やはり俺に復讐の手伝いをさせることには抵抗があるのだろうか。役に立つかもわからない、その辺のゴミのような俺を共犯者に起用することには。  とは言え俺も、その計画に乗るかは正直迷っていた。幾度となく万引きや空き巣をやってきた俺だが、流石に人を殺めるまではしたことがない。人殺しこそ、本当に人のやってはいけないことだと信じてやまなかった。  おそらくこの意見には、今や連絡すら取っていない俺の両親も同意することだろう。だからこそ俺は迷った。いくらFの頼みであっても、本当にそんなことを安易に引き受けてもよいのかと。  しかし、このまま返事をせずにいるのは嫌だった。仕方なしに俺は、彼の計画とやらの大まかな流れを問いかける。するとFは、あたかも説明書を音読するが如く口を開いた。
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