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ヴィー、どうして君がいないの
リーゼロッテが目を覚ましたのは、王都の西にある侯爵領の、丘の上にある侯爵家ーー我が家だった。
目を覚ましたリーゼロッテのがまず最初にしたことは、クロヴィスの安否を確認すること。
リーゼロッテの表情を見た両親は驚いた顔をしていたが、やがて悲しそうな顔で首を横に振った。
ーーヴィーが、死んだ?
リーゼロッテは愕然とした。そんなわけない。ヴィーが死んだはずがない。繋いだ手を、決して離さないと約束したのだ。そんな、わけが、なかった。
葬儀は1週間後に行われるという。
ーー死に顔は、見せてもらえなかった。
リーゼロッテがあとを追ってしまうと思ったのだろうか。たしかにそれは正しい。
リーゼロッテは、クロヴィスが死んだときいて、足元が崩れるような感覚に襲われていた。
震えて動けない。それは、自分の芯にしていたものが失われる感覚にも似ていた。
リーゼロッテは気づけばクロヴィスの部屋にいた。ベッドにうずくまるようにして、ぎゅっと枕を抱きしめるとクロヴィスの匂いがして安心した。
ヴィー、ヴィー。
大人になったら一緒にワインを飲もうねと言った。でも、もうできない。
守ると思って、けれど守れなくてーー最期にリーゼロッテに表情を取り戻させていった人。
リーゼロッテは、クロヴィスに何ができたのだろう。
リーゼロッテを、愛してくれた彼に、リーゼロッテは何ができていたのか。それも知らないで、リーゼロッテはクロヴィスに愛されていたのだと、今になって理解した。
シーツを手繰り寄せる。クロヴィスの匂いは、ただでさえ希薄なのに、これからまた薄れていくのだろう。気が狂いそうだ。
枕をぎゅうと抱きしめる。
ヴィー、ヴィー。
涙は出ない。なぜなら、信じられないからだ。
自分がクロヴィスを助けられなくて、クロヴィスが自分を守って逝った、その事実を、信じられないからだ。
「私、は、ヴィーになにかしてあげられた?」
乙女ゲームの結末が早すぎて、もしかして、これはリーゼロッテはが運命に逆らおうとしたせいで起きたバグなのではとすら思えた。
クロヴィスを死なせないために頑張って、頑張った数だけから回って、そうして、その果てにあったものがシナリオ通りのクロヴィスの死だなんて、そんなこと信じたくない。
「ねえ、ヴィー、私、笑えるのよ。泣けるのよ……顔が動くの、なのにどうしてあなたがいないの」
声が震えた。
ーーリズ。そうやって呼んでくれる声を待っている。
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