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episode1
「おはよう〜ございま〜す。」
いつも通りスタジオに入ると、大人が沢山いる。貼り付けたような笑みでみんな笑いかけてくる。俺もそれにならって笑顔を振りまく。
「初めまして、斉藤遥瑠空(さいとうはるく)くん。」
カメラマンが俺に向かって言った。どうやらカメラ業界では有名なカメラマンらしい。
「初めまして。斉藤遥瑠空です。本日はよろしくお願いします。」
***
撮影も終わり、スタジオを出る。今日は平日だが、もう夕方を回っている。学校は間に合わない。私服で東京の街を歩く。
斉藤遥瑠空は、今テレビで人気のアイドルだ。グループは組んでおらず、1人で歌やダンス、演技やバラエティをこなすマルチアイドル。ルックスや、ファンサービスの良さも人気のひとつだが、何より、中学2年生という若さとそれに反する大人顔負けの学力の良さが万人受けしているらしい。
たまたま街を歩いていると、最近の若者人気、タピオカがあった。
タピオカ好きじゃないけどな・・・とか思いながら、これもファンサービスの為だと言い聞かせ、レジに並ぶ。
「いちごのやつください。」
「ストロベリーですね。600円です。」
わざわざ言い直さなくても・・・と思いつつ、お金を払う。
「お待たせしました。ストロベリーになります。」
お礼を言って、レジを離れる。人目を気にしながら盛れる機能のついたアプリを起動し、タピオカも映るように自撮りをする。ついでにウインクでもしとくか。
何度か試行錯誤しながら撮り終え、ようやくタピオカを飲む。元来甘いものはそんなに好きではない・・・から、その甘さに思わず渋い顔になってしまう。
『また今日もこうして、自分を演じるのか・・・。』
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