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不正知の道理
周は、学校へ来ていた。
背中を丸め、小さくなってカバンを胸に抱えて廊下の隅をおどおどと歩いている。
と、突然背中に激しい衝撃を受けて、そのままカバンを投げ出して前へ突っ伏してしまう。頭上から、数人の笑い声。
「あぁ、いたんだ?あんまり存在感がないから、わからなかったぁ」
周を蹴り飛ばしたのは、同級生の高梨沙織だ。
女子にいいようにされて、こんなにも怯えているなど自分でも情けないとは思う。しかし、どうにもできない。
うつむいたままそそくさとカバンを拾うと、逃げるように教室へ駆け込んだ。
教室へ来たからと言って、別段何が変わるわけでもない。クラスメイト達の視線は一様に冷たく感じる。
周は俯いたままカバンから教科書を出すと、そのまま机に突っ伏した。次の瞬間。
机に強い衝撃が走り、周はそのまま床へ崩れ落ちた。
見上げるとそこには、高梨沙織が不敵な笑みを称えていた。
「こんなとこに机があるなんて、全然気づかなかったぁ。まじ邪魔」
取り巻きたちがクスクスと笑う。
その笑い声はいつしかまるでクラス中が自分を笑っているかの様に聞こえてくる。周は黙ったまま起き上ると、机を直して再び腰を下ろした。
「ふんっ」
そう言って、高梨沙織は取り巻きたちを連れて自らの席に戻っていった。
じっと机の一点を見つめる。
悔しくて、悲しくて、情けなくて涙が出そうになるが、ここで泣いたらきっともっと面白がられるだろう。周はぎゅっと下唇を噛んだ。
「うちのママがねぇ~、最近タロットにはまってるみたいでぇ~」
席は随分離れているのに、高梨沙織の声は良く響いていた。
「そのはまるきっかけがね、ママには見えちゃうのよぉ~」
高梨沙織の母親は度々テレビでも見かける有名人だ。女優や歌手ではないが、何かのコメンテーターとしてテレビ出演したのをきっかけに、度々出るようになっていた。そんな母を誇りに思うこと自体は悪いことではないだろう。実際、高梨沙織の母親がテレビでもその類の話をしていたのを周も見たことはある。
取り巻きたちがきゃぁきゃぁと騒ぎ立てる。こっそり視線を上げると、取り巻きたちに囲まれた高梨沙織が自慢げに母親の話をしていた。
周にはその光景と、先日砦誘鬼で見た客の男と重なった。取り巻きたちがあの、異形の餓鬼に見える。
___そういえば・・・・あれから、砦誘鬼にはいってないな・・・・
ふとそんなことを考えるが、正しくは”行けていない”である。そもそも途中下車した場所から淨に連れられて行ったのだ。それが、店を出た時には、周の家の近所だった。
一体どこに行けば、再び砦誘鬼にいけるのか皆目見当もつかない。
小さくため息を吐いて、クラスを見渡す。空はどう見ても周と左程変わらない年齢に見えた。本人は周よりもずっと大人だと言っていたが、実際どうなのかわからない。それでもあの癖のある髪をふわふわとさせながら、人懐っこい笑みを見せる空ならきっと、このクラスにも溶け込んでしまうことができるのだろうか・・・・そんなことを考えても仕方がないのだが、どうしても考えてしまう。そして更に落ち込んでいるのだから、自分でもほとほと嫌気がさした。
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