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弐
昼食を食べるころには、高梨沙織の周りはすっかり人だかりができていた。
朝から母親のことを話し始めた高梨沙織であったが、どうやらタロットにはまった母親が最近人外のものを目にするようになり、血が繋がった自分もその力が覚醒した・・・・と、そんな話をしているらしい。
自席で菓子パンの袋の口を開けながら、否応なしに聞こえてしまう高梨沙織の話を聞いて、一口食べた菓子パンを再びビニールに戻した。
___人外の存在
その言葉は、先日の坂田昇が禊によって変わり果てた姿を思い出すには十分なキーワードだ。周は一気に食欲をなくし、一口食べただけのパンをカバンにしまうと、ぼんやり外を眺めていた。
「ねぇ、あんた、浮浪者の霊がとり憑いてるよ」
不意に声をかけられはっとして顔を上げると、そこには高梨沙織がいた。
「あ・・・・うん」
自分でもなぜ、そんな返事をしたかわからない。ただ、反論してもどうせ無駄なことだけは明確だった。それに、餓鬼が憑いていると言われるよりも、浮浪者の方が、まだましだとも思った。
「だからあんた臭いんじゃないのぉ」
___別に僕は臭くなんてない
そう思うものの、もちろん口には出せない。
「ねぇ、その浮浪者の霊ってどんな人なの?もしかして土方、とり殺されちゃったりしてぇ~」
取り巻きたちが面白がって、高梨沙織を煽る。
「えっと、ちょっと待ってね」
「え?」
思わずきょとんと高梨沙織を見上げてしまった。なぜなら彼女は霊能力者さながらに、目を閉じ周に向かって掌を翳したのだ。
___馬鹿げてる!
席を立とうとしたが、その肩を取り巻きたちに抑えられてしまう。そうしているうちにも、胡散臭い高梨沙織の霊視は続いている。
暫くして目を開けた高梨沙織は、周に向けて眉を顰め怯えたような顔をした。「どうしたの?」と、取り巻きたちが高梨沙織の言葉を待つ。
「うん・・・・なんかね、戦争で爆発に巻き込まれて死んだ人が戦後、生活に困って浮浪者になって・・・・結局餓死したの・・・・こいつに憑いてるのは、そういう霊よ!」
いつの間にか取り巻きの他にもクラスメイトが集まってきている。
みんなそれぞれに「キャー」だの「怖い」だのと騒ぎ立てている。
___本当に、馬鹿げてる
周はため息を漏らした。が、それを高梨沙織は見逃さなかった。
「ねぇ、今ため息ついた?それ、どういう意味?もしかして疑ってる?私を疑うってことは、うちのママのことも疑うってことになるけど!」
一体何をどうしたら、そんな話になるのだろうか。
「いや・・・・別に疑ってないよ」
「口では何とでも言えるわっ!いいわっ!私がその霊に、あんたを連れてってって頼むから!」
___こともあろうか、なんてことを言いだすのだろうか・・・・
「いや、本当に疑ってないからさ・・・・」
そう言うと周は、次の授業の教科書を抱え教室を飛び出した。
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