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教室を出たところで、行く当てなどない。
次の授業は化学で教室が移動になるが、まだ科学室は開いていないだろう。
周の足は自然と屋上に向かっていた。こんな時ドラマならひとり屋上で黄昏るシーンが定番だ。しかし、甘かった。
屋上の扉はしっかりと鍵がかけられていた。
仕方なく、その場へずるずると座り込む。
___一体・・・・どうしてこんなことになったのだろうか・・・・いつから、何が原因で高梨沙織の嫌がらせは始まったのだろうか・・・
考えても到底答えなど出なかった。
___神も仏もいる
不意に空が言った言葉が思い出される。だとしたら、こんな時こそ神や仏は手を差し伸べてくれるべきなのではないだろうかとも思うが、思ったところでそんな救世主は現れるはずもない。空達に会ったことで、少し気持ちが軽くなったような気がしていた。あれから学校へは来ている。しかし、それも限界に近いような気がした。
「そろそろ・・・・だな」
時計を見て、よろりと立ち上がった周は重い足取りのまま科学室へと向かった。
科学の授業は、自由席だ。皆が中の良い友達とグループになってひとつの机を囲む中、周はひとりぽつんと六人掛けの机にいた。
別になんということはない。無理やり仲良しでもないクラスメイトと一緒にいるよりは、数段楽だった。
「えー、今日はエタノールでの爆発実験を行うぞ」
科学の教師である岸和田の声に、皆が歓喜の声を上げる。一体爆発実験の何でそんなに盛り上がれるのだろうかと、周は不思議に思う。
「せんせー、その頭は爆破実験失敗ですかー?」
男子生徒が、岸和田の禿げた頭をからかって言った言葉に、クラス中がどっと笑う。
「まぁなぁ・・・お前らも気をつけろよー」
馬鹿にされた岸和田自身も左程気にする様子もなく、生徒に応えていた。同じ空間にいながら、その和気あいあいとした雰囲気の中に自分はいない。
周は、他人事のように楽し気に笑うクラスメイト達を見ていた。
実験はシンプルなものだった。
上蓋を缶切りで開けた缶の中にエタノールを数滴たらす。缶の下部には、小さな穴があけられていた。上蓋部分を薬包紙で閉じて小さな穴に火をつけたマッチを近づけると、薬包紙がポンとはじける。
爆破実験とは言うものの、実際にその威力は風船が割れるよりも小さい。
科学室のあちらこちらから、きゃぁきゃぁと言う声が聞こえる。時折、岸和田が「火を使うから、慎重になぁ」と、声を張り上げている。
周に至っては、別段騒ぐ相手もいない。どういうわけか周の机には既に薬包紙で蓋をされている缶が置かれている。
あとは、クラスメイト達の進行状況を確認して、みんながマッチの火を近づけるタイミングで、周もそれをすればいいだけのことだ。一瞬で終わる。
エタノールを入れすぎただの、薬包紙が切れたと騒ぐクラスメイト達をぼんやりと眺めながら、そろそろかと周はマッチ箱を手に取った。
その時だった。
「危ないっ!」
耳元で誰かの声がしたような気がした。
きょろきょろと辺りを見回すも、誰もいない。だがどうしても気になる。
周は立ち上がり、すぐ後ろの科学室のドアを開けて廊下を見た。やはり誰もいない。周がここまで気になった理由____。
それは、その声に聞き覚えがあったからだ。
___確かに・・・・空さんの声だった
しかし、ここに空がいるわけがないのだ。
周は気を取り直して席に戻ると、マッチを擦った。
シュッと小気味いい音を立てて、マッチの先に火が灯る。
周はゆっくりと、缶に空いた小さな穴へその火を近づけた。
次の瞬間______。
何が起きたのか、わからなかった。
一瞬にして目の前の缶が吹き飛び、それと同時に肌の所々に針で刺されたような痛みを覚えた。と、同時に誰かに庇われるように周は床に転がっていた。
クラス中がしんと静まり返っている。
周の体の上に、ずしりとした重みがあった。
___一体、なにが起きたんだ?
ゆっくり目を開けると、すぐ目の前に癖のあるふわふわとした髪が見える。
そして、香のような匂いが周の鼻腔をくすぐった。その匂いには覚えがある。
体の上に圧し掛かられたままぼんやりしていると、むくりとそれは起き上った。
「えっ?空さん?どうしてっ?」
思わず、素っ頓狂な声が出た。
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