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「やぁ、周君。なかなかデンジャラスな日々を送っているようだね」  そう言って穏やかな笑みを向けてきたのは戒だった。 「ったぁくよ、トロイにも程があるってんだ。大体なんでてめぇは、やられっぱなしなんだよっ」  吐き捨てるようにそう言って、周に冷たい視線を向けているのは淨だ。 「いっいや・・・・てか、なんで保健室が砦誘鬼になってるんですかーーーーーっ!」  自分でも驚くほどの声が出た。  周が驚くのも無理はない。保健室だと思って入った先は、喫茶 砦誘鬼だったのだから。  「そんなことより、あっちこっち血が出てますよ。消毒しますから座ってください」  戒が薬箱を手に、周を座らせる。 「ワイシャツも脱いでくださいね。釘・・・・刺さってますよ」  周の肩に刺さったままの釘を戒が抜くと、ちくりと痛みが走る。 「えっ?釘・・・刺さってましたか?」  周は今の今まで、自らの体に釘が刺さっていることに全く気付いていなかった。  「えぇ、ここにも・・・・」  どうやら刺さっていた釘は一本ではなかったらしい。  淨が呆れを通り越し、蔑みの眼差しを周に送る。 「ここまで来ると、こいつのバカにも大がつくな」 「まぁまぁ、そんなところが周のいいところでしょ?」  向かいの席に座った空がカラカラと笑うが、もはやその言葉もフォローになっていない。 「す・・・すみません・・・・」  そうしている間も、戒はテキパキと周の体の傷の治療をしてくれた。顔にも釘が掠っていたようで、消毒液を吹きかけられると頬がしみた。 ___あれ・・・・僕がこれだけ怪我してるなら、庇ってくれた空さんは・・・  不意に思って空を見るが、空に傷はひとつもない。 「あの・・・・空さんは、怪我しませんでしたか?」 「ん?あぁ、大丈夫。俺、あの程度で怪我とかしないし」 ___いや・・・・仮にもアルミ缶が粉砕する程の爆発だったのだはずだけど・・・・あの程度って・・・・  今更ながら、砦誘鬼の面々は底が知れない。 「俺思うんだけどさぁ・・・・・」  空がテーブルに足を乗せ、両手を頭の後ろで組みながら言う。 「周はもっと、堂々としたらどうだ?」 「できねぇから、こうなってんだろうが。元がヘタレなんだよ」  淨がカウンターの椅子に座り、たばこを吸いながらちらりと周を見た。 「でもさ、周に色々してるのって、ほんの一部じゃん」 「まぁ、実際に危害を加えているのが一部だとしても、傍観する者たちもそれはそれで罪はありますよ」  周の治療を終えた戒が、薬箱を片付けながら話に入る。 「だけどさ、周がこのままじゃ仮にあの女がどうにかなっても、また第二の高梨沙織がでてくるとおもうんだよなぁ」 「なぁんか、虐めてくださいって、貼紙背負ってるようなもんだもんな・・・こいつぁよ」 「まぁ・・・・確かに、周君自身も変わる必要はあるかもしれませんね・・・」  最後には戒さえもが、匙を投げる。  ここは反論のひとつもしたいところだが、なにせ全て本当のことだ。周は何も言えないまま、背中を丸くして縮こまった。 「ほら、それっ!まずその姿勢やめない?」  空が周に向かってぴしゃりと指を指す。 「はっはいっ!」  突然自分に向けられた言葉に驚いたのもあるが、これごときでぴしっと姿勢を伸ばしてしまう自分のヘタレさ加減に、周は苦笑いした。  結局、どうしたらいいのか結論がでないままでいると、店の奥から緩い欠伸と共に、のそりと三蔵がやってきた。  酒の匂いがする。  「ん?周くんじゃないのぉ。どうしたの?いっぱい傷作っちゃって」  三蔵は戒や淨よりも、幾らか年上に見える。伸ばしているというより、伸びてしまったといった方がしっくりくるようなぼさぼさ頭に、垂れた双眸。見るたびに酒を呑んでいる。しかしその垂れた双眸には、妙な艶がある。流し目をされれば、男の周でさえどきりとしてしまう。  三蔵はカウンターにだらしなく座ると、戒に向かって「酒ぇ~」と甘えるように言った。  戒からグラスに入った酒を渡されると、それをごくりと喉に流し込み再び周に視線を向ける。 「で、なにぃ?若い身空で人生に行き詰まっちゃってるの?」 ___いや・・・そこまでは言ってません・・・・  と、本人は主張したいのだが、これまでの空達の会話を思い返せば、完全に周は人生に行き詰まっているということになるのだろう。
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