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気だるげに酒を呑む三蔵に、空が事の顛末を話す。
「なるほどねぇ~で、その高梨沙織って子には憑いてたの?」
「それが・・・・」
珍しく空が口ごもった。
「あぁ?なんだよ、はっきり言えよ」
淨に言われて、空は渋々と言った様子で口を開いた。
「憑いてるには憑いてるけど・・・・・餓鬼じゃないよ」
では何が憑いているというのだろうか。周はぶるりと身震いをした。が、はたと思いだした。
「あの・・・彼女、霊が見えるって言ってました。なんでもお母さんも見える人で、その影響だとか・・・。僕には浮浪者の男が憑いてるって言ってたし・・・」
周の言葉に、四人がぽかんとして周を見た。
「えっ、えっ、僕、なんか変なこと言っちゃいました?」
と、次の瞬間三蔵が大笑いを始める。
「いやぁ、周君。君のその素直なとこいいよ!」
「はぁ?素直ってか、ここまでくると、こいつの頭は空っぽ疑惑が浮上してんぞ?」
「いやいや、淨。そうとも言えませんよ?素直さは財産ですよ」
周を庇っているのか、貶しているのか・・・・おそらく後者だろうと思いながらも、周は首を傾げた。
「え?ってことは・・・・あれは嘘?」
「あぁ~まぁ~ねぇ~」
向かいの席から身を乗り出した空に、ぱちんとデコピンをくらった。
「お前にはそんなもん憑いてねぇよ。むしろ憑いてるのは向こう!」
「そうだったんですね・・・・・って、ぇえっ!高梨さんに何か憑いてるのですかっ!」
全く持って危機感のない周に空がため息をついた。
「で?どうする?」
空がため息交じりに三蔵に向かって言うと、三蔵はうーんと暫く考えるようなそぶりをみせたあとで、にやりと笑う。
「淨、お前周と一緒に少し調べてきたらどうだ?」
「はぁ?なんで俺?しかも、このヘタレを連れてってどういうことだよ!大体、俺らは第六天魔王がらみの事は関わるけど、たかが幽霊ごときに関わる筋合いねぇだろ?」
「ちょっと待ってください!高梨さんに、その・・・幽霊が憑いてるんですか?」
「いいじゃねぇか。別にちょっと見てくるくらいよぉ」
「やだね!」
「あのぉ・・・・・」
完全にスルーされている。
周は立ち上がった。
「あのっ!」
「ぁんだよ!うるせぇなっ!」
淨に睨まれて怯みそうになるのを必死に耐えながら、一歩前へ出る。
「高梨さんに悪い幽霊が憑いてるなら、放っておけません!淨さん、お願いします!」
「はぁ?」
淨が眉を顰めた。
「お前さ、自分がついさっき、あの女に何されたかわかってんの?」
「いや・・・あれは事故ですし・・・・」
「あんなんが、事故なわけねぇだろうがっ!てめぇは、空が助けに入らなきゃ失明してたんだぞ!」
「あ~、でもしませんでしたし・・・・・」
「それにしても!だ! 普段からあれだけ嫌がらせされている女を助けるってのか!」
「うーん・・・・助けるというか・・・・」
一旦口を閉ざした後で、周は淨を真っすぐに見た。
「僕、正直どうして高梨さんにあそこまで嫌われているのか、見当もつかないんです。だから・・・・淨さんと一緒に彼女を知れば何かかわれるんじゃないかって思うんです。だから、お願いします!」
そう言って頭を下げる周に、淨は舌打ちをした。その脇で、三蔵と戒がクスクスと笑っている。
「これは、淨の負け・・・ですよね?潔く行って来たらどうですか?」
「そうだそうだ。早く行ってこい。このチンピラ河童がっ」
「くっそっ」
淨は舌打ちしたあとで、怠そうに立ち上がった。
「ほら行くぞっ、ヘタレっ!」
「はっはいっ!」
淨について店を出ていった周は、調教された犬のようだった。
「なぁんかさ・・・・、周って淨にはめちゃくちゃ言われても、結構言い返してるよね?」
黙って見ていた空がぽつりと言った。
「確かに・・・言われてみればそうかもしれませんね。まぁ淨も口ではあぁ言ってますけど、結構周君を気にかけてると思いますよ」
「うん・・・俺もそう思う・・・・それに考えてみたら、周拾って来たのって淨だしなぁ」
空と戒の会話を聞いていた三蔵がふっと笑う。
「まぁあのチンピラ河童と一緒にいりゃぁ、少しは度胸もつくだろうよ」
「なるほど!そういう意味では淨はいいトレーニング相手かもしれませんね」
「だろ?」
勝ち誇ったように言うと、三蔵はグラスの酒を一気に呑みほした。
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