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謎の喫茶店
腕時計の針は丁度九時を指していた。
土方周は、大きなため息をつき雑居ビルの間の細い路地で学校のカバンを抱えて蹲った。
学校ではそろそろ一限が始まろうというころだ。もちろん学校へ行くつもりで家を出たのだが、どうしても足は進まず、電車を途中下車して結局このザマだ。
周の首筋から、じとりと汗が流れた。7月に入った今年の東京は例年に漏れず茹だる様な熱さが続いている。こんなビルに囲まれた路地裏では風が通るはずもなく、まるでサウナにでも入っている気分だ。家に帰ることも考えたが、母親に学校へ行かない理由を問い立たされるのも面倒で、周はよろよろと立ち上がると、路地を出て歩き始めた。
会社へ向かう人々が灼熱のなか、きっちりと長袖のスーツに身を固めわき目もふらずに駅へ向かって速足で歩いていく。周はそんな人の流れに逆らうように、ふらふらと歩いていた。
日差しがアスファルトに反射して、上からも下からも容赦なく照り付ける。
___とにかく・・・・何か飲みたい・・・・
徐々に体から力が抜けていくような感じがした。頭がぼーっとして、何もかんがえられない。
手っ取り早く水分を手に入れようと自動販売機の前に立ったものの、小銭を握りしめたところで限界がきた。耳鳴りと共に、目の前が真っ暗になる。
遠くなる意識の中で、誰かの声を聴いたような気がした。
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