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慢過慢の道理
周は学校へ行く途中・・・・いや、正しくは学校へ行くに行けずに茹だる様な暑さの街中を彷徨い、とうとう倒れたところを淨という男に拾われ、ある喫茶店に連れてこられた。
そこには、周を助けた淨の他に、空、戒と名乗る男たちがいた。
短髪で見るからにチンピラ風情の淨。
周といくらも変わらないように見える、癖のある髪と大きな瞳が印象的な空。
物腰が柔らかく、清潔感のある戒。
三者三葉の彼らの営むであろう喫茶店に、訪れた客の男。
でっぷりとした腹、ぎょろついた目玉、突き出た唇はへの字に歪んだこの男を前に、淨、空、戒の三人はなんとも言いたい放題。
決して小声で話しているわけでもないのに、件の男はまるで聞こえていないようだった。
恐る恐るその様子を覗いていた周の目に、信じられない光景が飛び込んだ。
件の客の男の周りに、見たこともない生き物たちが群がっていたのだ。
いずれも一メートルほどの背丈ではあるが、皮膚の色は青緑がかっている。
頭部からは中途半端に毛が生え、皮膚を押し上げるようにして角のようなものが突き出している。
手足は骨に皮が張り付いただけで、いづれも細く腹ばかりが膨れている。
襤褸を纏って、卑しい目つきで男を見上げながらまとわりついている。
「あ・・・・・ぁあ・・・わ・・・・あぁゎ・・・・」
周が声にならない声を上げていると、淨が気が付いた。
「あぁ?なんだ、てめぇにもあれが見えちまったか?」
どうやら、淨達にもあれは見えているようだった。
言葉にならず、周はコクコクと頷いた。
戒がグラスに入った水を周に差し出す。
「初めて見たなら、驚いたでしょう。はい、お水でも飲んで落ち着いて」
戒からグラスを受け取り、一気に水を呑みほして何度も深呼吸をした。
ひと心地ついたところで、恐る恐る再び件の男に視線を向ける。
___見間違いかもしれない・・・・
そんな淡い期待をもってはみたものの、やはり見間違いなどではなかった。
客の男の周りには、あのなんとも言えない生き物が相変わらず群がって、男に卑しい視線を浴びせている。当の本人には見えないのか、平気な顔で相変わらずどこかへ電話をかけ、罵詈雑言を浴びせていた。
ガクガクと体を震わせている周の元へ、空がぴょんと飛ぶようにやってきた。
「・・・・・空さん・・・・あれは、一体・・・・・」
やっとのことでそれだけ言うと、空は何でもないことのように言う。
「あれか?あれは餓鬼だ」
「餓鬼?」
「あぁ、第六天魔王の・・・まぁ手下たちだな」
「第六天魔王?」
「あぁ、そうだ」
その名には聞き覚えがあった。
「あの・・・それって、織田信長・・・・のことですよね?」
「は?」
空はぽかんとして、周を見た。と、背後から戒がクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「かの織田信長公はその所業の残忍さから、そう揶揄されていただけで、別に信長公自身がそうなわけではありませんよ」
「そ・・・そうなんですね・・・・」
浅はかな知識で物を言ってしまったと、周は恥ずかしくなり俯いた。
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