俺は洗礼を受ける

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

俺は洗礼を受ける

今俺は冒険者となって初めてダンジョンに入った時の事を思い出している。知らない天井を眺めながら五体不満足でどうしてこうなったと後悔しかない。 あれは数時間前の事だ。冒険者登録が無事終わり、装備等の買い物を適当に済ませた俺は意気揚々とダンジョンに入って行った。店員が勧めてくれた武器を持ち、当たれば一撃で倒せる雑魚と言われるスライムを探して中を練り歩いていた。 「お、あれがスライムか? プルプルしてて、大っきなゼリーみたいなんだな」 軽い気持ちで近づいて、一撃で仕留めようと武器を振りかぶる俺。この時自分の運動神経、ニート暮らしで弱りきった筋肉が如何に貧弱であったかを考えるべきだった。 「せい! あれ? 当たらないぞ?」 スイカ割りよろしく、目隠し無しで振り下ろした武器が狙いを外してスライムの脇に逸れる。 「あだ!?」 地面に激突した事により武器から伝わる衝撃に思わず手を離してしまう。手が痺れてしまった。 「おー、痛え。あれ? スライムは何処に行ったんだ?」 痺れた手が気になって目を離したのがいけなかったのか、目の前に居たはずのスライムを見失う。 「何処に行った・・・うげぇ!?」 背中から強い衝撃を受けた。防具である程度防いでいるはずなのに、痛い。振り向けば其処にスライムが居る。コイツが攻撃して来た? 「くそぅ、今度こそ!」 落とした武器を拾って再度攻撃しようとするが、全く当たらない。スライムはポヨンポヨンと跳ねながら、華麗に俺の攻撃をかわしている、風に他人の目からは映っている事だろう。本当は単に俺の攻撃が空ぶっているだけなのだが。 「いで、いでで!!」 スライムは無防備な俺の身体に体当たりを繰り返す。運動神経の有る人なら簡単に躱せるそれを、俺は思う通りに動かせない身体の所為でもろにくらい続ける。 何度も振り下ろした武器の重さにとうとう耐え切れなくなった俺の腕は、武器を握る事さえ出来なくなり、一方的に攻撃を受ける事になる。そして顔にダイレクトに体当たりを受けた俺は意識が朦朧として倒れる。 「あれ、俺こんな事で死んじゃうのか?」 そして意識を回復した時には俺はベッドの上に寝ていた。全身打撲で身体が思うように動かせない。 「気付かれましたか?」 回想を終えた頃、扉を開けて誰かが入って来た。声からして女性だろう。しかし、顔を動かす事すら億劫な俺は未だに天井を見上げたままだ。 「スライムにやられる人を初めて見ました。大丈夫ですか?」 どうやら彼女が俺を助けてくれた様だ。感謝の気持ちはあるが、屈辱の気持ちが勝り口を噤んでしまう。てか、女子とマンツーマンで会話出来る訳がない。ニート舐めんな。 「今、回復スキル持ちの救護班が此方に向かっています。到着次第、ダンジョンの中に戻りますね」 そう言えば、スキルはダンジョンの中でしか発揮されないみたいな事がネットで呟かれていたっけ。 数刻して救護班が来たので担架でダンジョンに運ばれた俺は、回復スキルにより全快する。スキル凄え!
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!