第二章 それはいつかのこと

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♢ 「そうして私たちは袂を分かちました。ふと廊下で出逢い、偶さか目的地が同じであった。それだけのことなのです。十分にも満たないような道のりでしたでしょう」  先ほどから吉奈さんと河津さんは黙りこくっています。 「詰まらぬ事を滔々と述べ立て、お時間を空費させてしまいました。申し訳ありません。お二人にはどうしても、」 「天ちゃん」と、河津さんが私の言葉を遮りました。 「違うよ。詰まんなくなんかないよ。そんなことより……」 「何で言わなかったの」  中途で言葉を失った河津さんの後を、吉奈さんが引き継ぎました。 「……それは」 「いつまで学校来るの?」 「来週一杯です」 「もうすぐじゃん!」  河津さんがテーブルを叩きました。雑音が店内に響きます。 「向こうに行くのは?」  吉奈さんは平板な声音を保っています。 「再来週の火曜です。十時の新幹線でこちらを発ちます。あの、お二人にお伝えできなかったのは、」 「天城」  吉奈さんが席を立ちました。 「応援してる」  そして彼女は出口に向かって行きました。 「天ちゃん。私……」  河津さんは顔を背け、そして吉奈さんの後を追いました。  テーブルにはカップが三つ残されました。  もう、氷は溶けています。
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