力と銃弾の行方

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力と銃弾の行方

「なんだこれ……」 俺がその特殊能力(オーバーアビリティ)に気づいたのは1ヶ月ほど前の話だった──。 「今……弾丸が曲がった??」 拠点(アジト)の地下にある射撃場でセミオートのハンドガンを適当に撃っていた時の話だ。 サイトを通して狙いを定めたはずだったのだが、弾丸は目標(ターゲット)とは大きく外れた。手のぶれだったりで外れることはあるが、明らかにそうではなかった。弾丸は真っ直ぐではなく、途中で弾道を大きく外れる。驚くことに直角に曲がり右側の壁に着弾したのだ。 「跳ね返った……のか?」 跳弾であると最初は思ったが今までそんなことはなかった。アサルトライフルでもフルオートでもそういったことがあったのは気づかなかった。 その違和感。 それこそがこの凶悪な能力の存在と、()()()()()記憶が蘇る引き金(トリガー)となった。 大きなショックなどで自然と消されてしまった記憶。 忘れたいと本気で願って抹消した記憶。 いつの間にか消えてしまった記憶。 色々なものが誰にだって存在する。 ただ何かきっかけがあれば思い出す、それも生活している上ではあるだろう。 俺が消してしまった記憶。 それは、両親から能力を受け継いでしまったということ。受け継いだことはいいことに思える、受け継いだ二つの特殊能力(オーバーアビリティ)が歯車のように噛み合って強力な特殊能力(オーバーアビリティ)になったことも素晴らしいことだ。 しかし、俺に継承をさせたことによって両親は特殊能力者(オーバーアビリティ)暗殺集団(キラー)というやつらに殺されてしまった。 能力がなければ……、抗う武器がなければ、 人間は、銃を始めとした武器の前では無力で儚い存在なのだ。 『継承さえしなければ、両親は死ぬことはなかった』 俺という存在がいなければこんなことは起きなかった。 だから、俺は能力と継承の記憶を抹消してしまったのだ。 抗う武器のない俺は、特殊能力者暗殺集団(やつら)の巣に潜り込んで崩壊させるしか手段がない。 そう思っていた──。 「この力で…………」 ──すべての記憶が蘇る。 「俺がこの先どうしようが両親は戻ってこない。俺にできるのは復讐だ。だが、もう少し様子を見よう」 今すぐというのも、明日というのも頭の中に浮かんだ。だが、何かが『今は時ではない』そう言っている気がした。 これが、市条(いちじょう)悠希(ゆうき)。 いや、川原(かわはら)悠希(ゆうき)、コードネーム【Z(ゼット)】の真実である。
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