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「グラン!グラン!」
「なに?父様。」
「ここにいたか。」
黒髪で顎に髭を生やした男が俺を呼んでいる。
これが俺の父さん。
「グラン。今日からお前の面倒を見ることになったティーシャ。ティーシャ-カラフリスだ。」
そこには凛によく似た母親らしき人に連れてこられた小さな凛がいた。
そして俺はグラン。元の名前はグラン-フルカルト。
フルカルト家は田舎の貴族で政権なんかとは無縁の生活。
昔父が武勲を上げた事でこの田舎の土地を任された貴族だった。
凛、元の名前はティーシャ-カラフリス。
カラフリス家は俺達フルカルト家に仕えてくれている家だ。
仕えると言ってもメイドの様なもので、そんなに多くを召抱える事が出来ないので一人だけ仕えてくれるという事になっている。
凛の前は母であるプーリーが仕えてくれていた。
本来であれば父が凛の紹介に来なければいけないのだが、凛の父は物心着く頃にはいなかった。
話では昔父と共にこの村を守る為にその命を掛けてくれたのだと言っていた。
名をバードン。
こんな辺境の村に腕の立つ人間が多く居る訳は無い。
ストーンドラゴンが群れを成して襲ってきた時に父と村を守り死んだ。
その後父はカラフリス家を守る為に仕えるという形で養う事になったのだ。
プーリーと凛はその措置に深く感謝をしていたが、父であるガーランは自分がバードンを助けてやれなかった事を悔いていてこんな事しかしてやれないと日々嘆いていた。
そんな事で凛とは小さい時からずっと一緒に育ってきたのだが、今回正式に従者として任を受けるとなり、形だけでも正式に行っているわけだ。
いつも一緒にいて名前もよく知っているのにそんな紹介の仕方を父がしているのにはそんな訳があった。
もちろん貴族の息子である俺もそれは重々承知している事なのでそれに則って挨拶をした。
凛はこれ以上なく緊張していたが、俺がよろしくと言うと満面の笑みになって嬉しそうにしてくれた。
それからは毎日一緒にいたのだが、俺には一つだけ心配事があった。
自分の魔力だ。
人並外れたこの魔力は時として人を傷付ける。
そんな事を考えていたら母様であるヒリス-フルカルトが俺に言った。
「グラン。どうしたの?」
「え?」
「貴方は誰の息子だと思っているの?私に分からないとでも思っているの?」
「…お母様……
…魔力が…自分の魔力がティーシャを傷つけてしまわないか心配です…」
「…そうね。確かにグランの魔力は人並外れたものだし誰かを傷つけてしまう事もあるかもしれないわね。」
「やっぱり…」
「でも、それは貴方がそうしたいと望まない限り、酷いことにはならないわ。魔法は怖いものかもしれないけど、制御出来ないものでもないのよ。
制御出来ない程の魔力など神様はお与えにならないのよ。」
「……」
「こちらに来なさい。」
母様はそっと俺を膝の上に抱き抱えると頭を撫でてくれた。
「良い?貴方は優しい子よ。その気持ちをずっと持ち続ければ、きっと近いうちに魔法は貴方の強い味方になってくれるわ。」
「……うん。」
バタンッ!!
「ヒリス!!グラン!!」
突然大きな音を立てて父様が扉を開ける。
額に汗を滲ませて息遣いも荒い。
「どうしたの?!」
「逃げろ!」
「逃げろって…どう言うこと?!」
「説明している時間は無い!早く!!」
父様は連れてきた凛とプーリーを含めて俺と母様を屋敷の裏へと引っ張った。
何が何やら分からない。
裏手には地下へと続く隠し扉があり、その中に押し込められる。
「あなた!?」
「行け!!早く!!」
父様は俺達を中に押し込むと扉を強引に閉めてしまう。
父様は外だ。
「見つけたぞ!!追え!!」
「くっ!」
ガシャガシャと鎧が擦れる音と、父様が走る音が遠ざかっていく。
「あなた…」
「奥様…」
「プーリー!一体何が起こっているの?!」
「………グラン様です…」
「え?!」
「魔力が高い子供を……その……」
「なんて事……」
「母様……僕……」
「貴方のせいじゃないわ!グラン!貴方が悪いわけじゃないの!」
強く抱きしめられる。
「父様は私達を守る為に一人で戦っているのよ。必ず生きて会えるわ。だから…逃げましょう。」
どこかふわふわとしていた。
何故こんな事になっているのか…僕のせい?僕の…
地下道を通って行くと川岸に出る。
深い川で少し下ると滝がある。
「行くわよ!」
「いたぞーー!!」
「?!」
森の中から鎧を着た兵士達が次々と出てくる。
母様とプーリーは僕と凛を庇うようにして抱き抱え、川の際まで寄る。
「その子を渡せ!」
「嫌よ!渡してなるものですか!!」
「お前の旦那のように死にたいのか?」
「?!!」
ゴロリと投げられたのは父様の頭。
首から下は無くなっていた。
「あなたーーーー!!!!」
「とう……さま………」
「そんな……旦那様………」
「早くその子を渡せ。」
剣を突き付けるように近付いてくる兵士達。
この時母様もプーリーも分かっていた。
俺を渡してしまえば実験やらなんやらで壊されてしまうだろうと。
凛も恐怖のあまり泣いてプーリーの腕の中にいる。
「早くしろ!死にたいのか!!」
母様に突き付けられる剣。
魔法でやっつけられれば良かったのだろうか…僕の魔法はまだ制御出来ない。
使えば十中八九皆を巻き込んでしまう。
母様はボクを抱き抱える手に力が籠る。
痛い程に。
「グラン。生きなさい。必ず生きて。私達の願いはそれだけよ。愛してる。何よりも…誰よりも。」
母様とプーリーは俺と凛を川に投げた。
「母様?!」
川へと引き込まれていく視界の中で、母様とプーリーが兵士達の剣に貫かれ、魔法に焼かれる姿が見える。
それでも、辛くはないと、僕達を見つめながら笑っていた。
バシャンという水音が聞こえると視界はそれまでと一転した。
ゴボゴボという水音。間近で同じように足掻いている凛。
僕は必死で凛の体を掴んでこの腕に抱き寄せた。
そして、数秒後、僕達の体は一度水から放り出される。
滝に到達したのだ。
浮遊感に襲われ、必死で凛と僕は互いを離さない様にしがみついた。
そして物凄い衝撃によって意識は完全に途絶えた。
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