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「マコト様?」
白い世界から戻ってくると目の前にプリネラの顔がドアップに…
「近いな。大丈夫だから。記憶がまた戻った。」
「プリネラに関することか?」
「あぁ。出会った頃からテイキビに到着するまでの記憶だな。」
「んじゃなんでプリネラがこうなったのか分かったな?」
「反省しております。」
「マコト様は悪くありません!むしろ私の新しい一面を見出して下さったのです!」
「お前はだまってろ!」
「あふーーん!!」
「ダメだ。こいつに打撃は逆効果だ!!」
「わ、私は奴隷ですが…そっちの方向への開花は…難しいかもしれません…」
「いや!しなくていいから!ってか俺が好んで開花させたみたいになってるけど違うからね?!」
「冗談です。」
「悪い冗談やめて?!」
「まぁリーシャが冗談言えるくらいには打ち解けてくれたって事で納得しておくとしよう。」
「真琴様は今回どんな魔法が使える様になったのですか?」
「闇魔法だな。」
「魔力も大きくなっていますし、順調に進んでいますね。」
「こっから先もそうあって欲しいとは思うがな。」
「次に会うべき方は分かりましたか?」
「なんか小さな赤髪、赤髭のおっさんだった。」
「となると目的地はテイキビで良さそうですね。」
「ドワーフって事か?」
「真琴様が想像してたドワーフとは違ったか?」
「あぁ。なんかずんぐりむっくりってイメージだったんだが。」
「あっちの想像でのドワーフってのはそんなのが相場だったからな。
こっちでのドワーフってのはただ成人しても背が低いだけの種族だからな。見た目が若ければ子供と間違えても仕方ない人も多いぞ。」
「赤髪のおっさんはムキムキだったけどな。」
「あの人は別だ。鍛冶屋だからな。」
「ドワーフ内でも有名な腕利きの鍛冶屋ですよ。」
「私がテイキビに行って仲良くなった人のうちの一人です!」
「プリネラと仲良くなったって…変態か?」
「その辛辣さ……良い……」
「プリネラは俺達以外には普通だからな。それに、ギャンボのオヤジさんはサバサバした人だからプリネラみたいに物事はっきり言う奴が好きなんだよ。」
「ギャンボって言うのか。」
「ギャンボ?!あのギャンボさんですか?!」
「リーシャの反応からすると有名なんだな。」
「私でなくても知ってますよ?!伝説とまで言われている鍛冶師ギャンボ!作る武器や防具は超一級品。国宝に並ぶとまで言われている腕の持ち主です!」
「あー。そういやジゼトルスの宝物庫にはギャンボのオヤジさんの作品も仕舞いこまれてるって聞いたっけな。」
「な、なんでマコト様の知り合いの方はそんな方ばかりなんですか…?」
「いや、今の俺に聞かれても分からんな。」
「真琴様……何か外が騒がしくありませんか?」
「え?」
宿泊している部屋から窓を通して見ると確かに村の人達がザワついている。
誰か有名な人でも来たのだろうか?
「皆さん!」
突然奥さんがノックもせずに飛び込んできた。
血相を変えて息を切らしている。
「ジゼトルスの貴族の方が探しています!」
「この騒ぎはそれが原因か?」
「はい!ハイカシを殺した奴を渡せと
出てこなければ村ごと焼き払うと…」
「好き放題やってるな…」
「なぜこんなに早く情報が伝わったのでしょうか?」
「それは分からないが、事実探されているわけだしな…その探している貴族ってのはどこの誰か分かるのか?」
「あの旗印はブリトー家のものだったかと…」
「ブリトー…ここで絡んでくるのか…」
「顔を出したらバレてしまいませんか?」
「だろうな。数年経っているとは言えあれだけ憎まれていたわけだし直ぐにバレるだろうな。」
「でしたら逃げますか?」
「そうなるとこの村がどうなるか…」
「………私達がなんとかします!ですからお逃げ下さい!」
「なんとかすると言っても…なんともならないだろ?」
「恐らく本当に焼き払われて終わりだろうな。」
「となるとやっぱり出ていくしか無さそうか。」
「そんな!!私達を助けて下さった方々にそんな事!」
「ま、元々この国からは出るつもりだったし丁度いいんじゃないか?逃げる事になっても…まぁなんとかなるだろ。」
「真琴様は真琴様ですね。」
「さて。そんじゃ最後に一働きして来ますかね。
宿、ありがとうございました。また来た時はよろしくお願いしますね。
それとプリネラ。大丈夫か?」
「今は真琴様の従者です。従います。」
「すまないな。」
引き止めようとしたのか、何か言おうとしたのか口を開いたアイリーチェからの言葉を待たずに扉を開く。
宿の外に出て直ぐに分かった。ブリトーの私兵と言われていた兵士達が馬に乗って村に押し寄せていたからだ。
数で言えば20はいるだろうか。全身を鎧で包み込み村人達を威圧して回っている。
既に俺達がハイカシに手を掛けた事は村中に伝わっているはずだが、誰一人として口を割ろうとしない。
唯一口を割ったのはダンジョン目的で来ていた奴隷商人だけ。
まぁ村に命を賭ける筋合いも無いわけだし当たり前の事だが…
商人の証言が元でこんな事になっているわけだ。
「おい!そこの!」
外に出て直ぐに声を掛けられる。背格好を聞いていたのだろう。
ローブを羽織っていながら黒髪となればこの世界ではかなり珍しいし目につく。
「なんだ?」
「現在我々はここの統治者であるハイカシ様を殺害した容疑で黒髪のローブ姿の男達を探しているのだが。」
「あぁ。それなら俺たちだが?」
「やはり…おい!いたぞ!!」
「そんなに騒がなくても逃げねぇから大丈夫だっての。」
ゾロゾロと集まってくる兵士達。その奥から一際派手な馬車が現れる。
「ブリトー様。」
馬車の横にいる兵士が声を掛けると馬車の扉が開き、中から1人の男が現れる。
どうやら本人登場だ。
数年前に俺達を捕まえられなかった事を活かして自分で出向くとは殊勝な話だ。
中から現れたのは長い白髪。その間から蛇のように細く鋭い目つきの男。
サンマルク-ブリトー。ブリトー家の現当主。
数年前に俺達を殺そうとし、プリネラをあの環境に置いた男だ。
おじさんと呼ぶに相応しい年齢であるはずが、見た目はかなり若く見える。
「……」
まるでゴミでも見るように俺達のことを無言で見つめる。
何も言っていなくても人を蔑む目というのは見れば分かるものだ。
しかし、俺の顔を見てその表情に変化が現れた。
最初はただ蔑みを込めた目であったが、何かを思い出すようにその目は怒りやら何やら色々な物が混ざった複雑な視線へと変わる。
本当に自分の考えが正しいのか判断を渋っている様に見えるが十中八九数年前のあの子供だと確信しているだろう。
俺は見た事ないというのに酷く好かれたものだ。
「き、貴様は!!」
「はい?」
「貴様はあの時の!!」
「あの時…??なんの事ですかね?」
「惚けても無駄だ!私の目は誤魔化されん!」
「何を言っているのかさっぱり分かりませんが…?」
「あの時の屈辱…忘れるものか!!」
ブリトーはマントの下、腰に差していた杖を取り出して俺に向けて構える。
周りにいた兵士達も抜剣しこちらに切っ先を向ける。
高位の貴族と言うだけあって雇うと高い魔道士が多い。
剣士に見える奴らも魔道士としての能力を持ち合わせた魔法剣士。
つまり剣術のみならず魔法をも使いこなすわけだ。
精鋭部隊と言っても過言では無い。
魔道士達も今まで相対してきた連中よりも数段上の手練だろう事は明白だ。
こんな村のド真ん中で暴れれば村ごと地図から消える事になってしまう。
少なからず世話になった人達もいるこの村を地図から消し去るわけにもいかない。
「悪いけどここでやり合う気は無いぞ。この村丸ごと消し去る気か?」
「私にとってこんな村などどうなろうと知ったことでは無い。」
「いや、貴族としてそれはどうなんだよ…まぁ何でもいいけどさ。悪いけど俺達はこの国から出ていくし邪魔しないでくれないか?」
「逃がすわけが無いだろ!それに、本当にこの国から逃げ続けられるとでも思っているのか?」
「……知ってたのか。」
「あの時色々と調べたからな。逃がした事をずっと後悔していたんだよ。悪いがお前は国王への貢ぎ物とさせてもらう。」
「そいつは困るなー。」
「な?!」
ブリトーの手足を植物のツタが絡めとる。
複雑に絡み合い人力では解くことが不可能な強度を実現している。
こんなにも複雑なコントロールが出来るのはこの場において俺の知る限りでは一人。
「私達が着いていながら真琴様をそんなに簡単に連れていかせるわけがないでしょう?」
「くっ!!」
「無理ですよ。いくら力を強化したとしてもそんなに簡単に外せませんよ。」
「何をしている!早く捕らえろ!!」
ブリトーの声に我に返った兵士達の殺気が一斉に向かってくる。
「うっ……」
ブリトーの脇にいた魔道士2人が突然苦しそうな声を上げて倒れ込む。
「誰に向かって殺気を放っているのか分かってるの?」
いつの間にか視界から消え、いつの間にか魔道士の後ろに立っていたプリネラが2人を気絶させたのだ。
殺さなかったのは俺の意図を汲み取ってくれたからだろう。
ここで殺せば確実に戦闘が激化する。
ブリトーは実力でのし上がって来ただけのことはあるらしく、なんとかツタから逃れプリネラから即座に離れる。
その目には明らかな焦りが浮かんでいた。
プリネラの動きを見て、この兵力では自分達が劣勢である。という事を正確に認識したのだろう。
それに反してブリトーの私兵達はそこまで感じ取る事の出来る者がいなかったのか、数人の剣士が自身の剣に魔法を纏わせてプリネラに斬りかかろうと剣を振り上げた。
バキンッという硬質なものが折れる音が聞こえてきたと思ったら振りかぶった剣が全て根元の辺りで折れている。
リーシャの放った一本の矢が、全ての剣を破壊したらしい。
これを見せられても気付かないなんてバカはいないらしく、後ずさる様にプリネラから距離を置いた。
「ここで争う気は無いと言っただろ。」
「………」
村の人達は皆家の中からこちらの様子を伺っている。
「これ以上ここにいる必要は無さそうだな。行くぞ。」
「はい。」
「待て!!」
ブリトーが杖を使って魔法を形成し始める。
見る限りここで放つには大き過ぎる魔法だ。
これだけやっても分からないのか…
さっと杖を振り、ブリトーが魔力を集中させようとしていた腕ごと氷漬けにしてやる。
肩まですっぽりと氷に覆われた腕は魔力を制御出来ず、集中させようとしていた魔力は霧散していく。
「ぐぁ!?」
「ブリトー様?!貴様!!」
「さっさと溶かさないと凍傷になるぞ。」
「くっ……氷魔法だと…」
「良いからさっさと帰れって。二度とここには来るなよ。」
「覚えていろ!!」
馬車に乗り込んだブリトー達は退散していく。
氷に込めた魔力が消えれば同時に氷も溶ける事は分かっていたとは思うが、単純にこのままでは勝てないと判断したんだろう。
なんとか村の危機は去ったらしい。
「皆様!!」
宿のアイリーチェ達を含めた村の人達が一斉に寄ってくる。
「ありがとうございます!!」
「あの貴族の奴の顔みたかよ?!スッキリしたぜ!」
「とは言ってもまた来る可能性だってあるんだぞ?」
「そんときは俺達でなんとかしますよ!助けられてばかりじゃ大人として情けないからな!」
「そっか。」
本当になんとか出来るのかは分からないが、今のこの人達なら心配はいらないのかもしれない。
大丈夫だと言うのであればそれ以上心配するのは失礼になると思い口を閉じた。
「じゃあ俺達はそろそろ行くとするよ。」
「本当にありがとうございました。」
「気にするな。じゃあまたな。ムルゴもまたな。」
「うん!!」
村の人達に別れを告げて村を出る。
目的地はテイキビ。
道程は長いが、楽しんで行くとしよう。
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