第二章 ドワーフの国 -テイキビ-

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第四位の水魔法、ウォータースライス。 水の刃を作り出し、対象を切る魔法だ。 魔力が足りないと範囲が小さかったり、水圧が足りず十分な威力を発揮出来ないが、そこは問題なさそうだ。 俺が杖を振るとその軌道上に大量の水が出現する。 今にも斬り掛かろうとしていた覆面の奴らも流石に面食らって歩みが止まる。 しかしそれを見て待ってやるほど甘くはない。 もう一度杖を折り返す様に振った瞬間に圧縮された水が刃となって襲い掛かる。 半円状に吹き出した水の刃に反応出来なかった2人が構えていた剣、そして下に着ていたであろう防具すらスライスして完全に真っ二つにしてしまう。 地面には血や内蔵が飛び散り、血の匂いが充満する。 なんとか水の刃の直撃を避けたが、片足の膝から下を失った者が一人、片腕を失った者が一人、そして無傷が二人。 驚いたことに片足、片腕を失った二人は苦痛の声を一切漏らさない。 余程訓練された身でも難しい事だと思うのだが… 追撃…と行きたい所だが、さっきの一撃を完全に躱した二人もいるし下手には動けない。 目の端に映る凛達も苦戦している様だ。 後衛にいた魔法使いが再び魔法を放とうと手元を光らせる。 対処しようとしたが、その魔法は発動する事は無かった。 今の今まで身を隠していたプリネラが後衛の魔法使い達の後ろから急襲したのだ。 黒椿を逆手に構えて反応出来なかった魔法使い達を数人葬る。 離れた場所にいた魔法使いは剣を抜きプリネラと相対する。 どう見ても一人では辛い人数だ。すぐにでも手助けしなければプリネラが危ない。 俺は杖を振る。 目の前で俺を警戒していた無傷の2人と重症を負った2人がさせまいと斬り掛かってくる。 もちろん4人同時だ。 ガキーンッという金属音が聞こえる。 俺の周りには大きな氷塊が出現し、それが剣を防いでいた。 もちろん俺の魔法だ。 水魔法に無属性魔法を組み合わせた魔法。氷魔法だ。 第二位氷魔法、アイスピラー。単純に氷柱を出現させる魔法だ。 分子振動を無属性魔法で強制的に止めることによって水を凍らせるという原理なんだが、今は原理より目の前の敵だ。 杖を振って発動させた魔法はこの氷柱では無い。 4人が氷柱に攻撃を防がれている中、4人を取り囲む様に拳大の水球が無数出現する。 それがパキパキと音を立てながら凍り、氷の棘となる。 アイスレイン。第四位氷魔法。 逃げ場が全く無いように、隙間なく空間を埋めつくした氷の棘。 それが一斉に4人を襲う。 逃げ場は無い上に発動させた本人である俺は氷塊に囲まれた中にいる。 手に持った剣で数発は切り落とせたらしいが、悪足掻きに過ぎず体中に氷の棘が刺さる。 4人は口から血をコポコポと流しながら絶命した。 もう一度杖を振る。 チリチリと焦げた様な臭いが鼻をつつく。 周囲を赤く照らしながら、炎で出来た犬が俺の足元に二匹現れる。 第五位火魔法フレイムハウンド。 意のままに操る事が可能な犬型の炎を出現させる魔法だ。 もちろん噛まれれば痛いだけでなく体中を炎が包み込む。 二匹のフレイムハウンドが地面をジリジリと焦がしながらプリネラの元へと走り出す。 フレイムハウンドの弱点はズバリ水魔法だ。 水魔法に対する耐性が低く水魔法をぶつけられてしまうと瞬時に消滅してしまう。 そのため魔法使い達が待機していた状態では使い物にならない。 しかし現状ではプリネラがそのハスラー達の注意を引き付け近接戦へと持ち込んでくれた。 つまり魔法をフレイムハウンドへ撃ち込もうとすればプリネラがその隙を見て攻撃するし、プリネラを倒そうと動けばフレイムハウンドが襲い掛かる。 プリネラは俺の放ったフレイムハウンドを一目見た瞬間に意図を理解し、即座にフレイムハウンドを利用した攻撃方法へと変わる。 フレイムハウンドを盾にして側面からのヒットアンドアウェイ。 一撃で倒さなくても何度も攻撃する事で少しずつ削いでいき最後に命を奪う。 やっている事は人殺しだが、プリネラの動きはまるでダンスでもしている様に見える。 結局プリネラとフレイムハウンドで10人以上いた奴らを駆逐してしまった。 プリネラは無傷とはいかなかったが、軽傷で済んで良かった。 プリネラの援護を終えると直ぐにフレイムハウンドをリーシャの元へと走らせる。 凛と健は各自でなんとか出来そうに見えるしプリネラも参戦する。時間の問題だろう。 それに対してリーシャは弓を主に使っているし近付かれると弱い。 既に数箇所切り付けられて血を滴らせている。 息も切れ切れで苦しそうだ。 相手は3人。一人はなんとか倒せたらしいが… そのうちの一人がリーシャへと近付き剣を振り上げる。 その後ろからフレイムハウンドが襲い掛かり首筋に炎の牙を突き立てる。 首筋から全身へと炎が広がり、火達磨となり地面をのたうちまわった後動きを止めた。 フレイムハウンドが二匹リーシャの足元に駆け寄る。 「マコト様!!」 「集中しろ!」 「はい!!」 前衛を完全にフレイムハウンドに任せることによって息を吹き返したリーシャ。 フレイムハウンドとの連携は見事と言う他ない。 ひたすらに練習を重ねてきた矢は狙いを絶対に外さない。 予想外の角度から曲がって飛んでくる矢は尽く相手の体に刺さっていく。 魔法防壁を張っているのか矢によって炎に包まれる事は無いようだが、ダメージは確実に増していく。 リーシャが後衛に専念できる状態になってしまえば後は一方的だった。 フレイムハウンドを倒そうと水魔法を準備した奴の額をリーシャの矢が捕らえ、その隙を着こうと走ってきていた奴を二匹のフレイムハウンドが捕らえた。 呆気なく絶命した2人。 振り返ると凛達も終わった所の様だ。 「こいつらどこの奴らだ?ブリトー家の奴らじゃないだろ。」 「貴族の私兵とは確かに思えませんね。戦闘力も戦い方も。」 「マコト様。これを見てください。」 プリネラの元に行くと1人の死体の顔を見ていた。 どこかで見た顔だと思ったら途中で出会った物乞いだ。 「やっぱり…おかしいと思ったんですよ。」 「……いや、どうだろ。こいつの体つき見てみろよ。」 「体つき?」 「あぁ。」 健が男の纏っていたマントをひっぺがすとその下に見えたのは痩せ細り肋骨が浮き出ている体だった。 「こいつの体つき見れば分かるだろ。あんな動きができるような体つきじゃない事。」 「剣も振れないくらいの体つきだな。」 「それに斬られようと殺されようと全く声を上げなかったろ?普通そんな事有り得ないだろ?」 「…つまりドMだったの?」 「なんでやー!!」 「ぁう!」 「変な声出すな!」 「操られていたって事か?」 「多分な。他の奴らを見ても同じ様な体つきだ。 物乞いとかを使って襲ってきたんだろうな。」 「……斬られても解けないような強い従属の魔法なんてあるのか?プリネラみたいに杭を打ち込まれているわけでも無さそうだが?」 「無くは無いですよ。禁術の類ですし簡単に行えるものでは無いですが…確か色々と必要な物もあったと思います。」 「必要なもの?」 「その魔法を完遂する為には希少な素材なんかが大量に必要だったと思います。」 「そんなもんほいほい使えるような奴らが相手ってことか?」 「ですね。」 「……ジゼトルスかな?」 「いや、どうかな。もしジゼトルスなら街を出る前に手を打ってきていると思うぞ。」 「つまり他の国…ですかね?」 「もしくは何か知らない組織の連中って事も有り得るな。」 「相手の動きを見るに殺しに来てましたよね。」 「あぁ。」 「もしマコト様の魔力が目当てなら、こっちに来ているのですし、捕縛して奪い方を聞こうとするのでは無いでしょうか?」 「何が目的なんだ?」 「さぁ…目的は何にしても殺そうとしていることだけは確かだから味方では無いよな。」 「次から次へと…」 「操られていたならどこかでその誰かが見てるんですかね?」 「いや、それは無いだろうな。見ているなら今がチャンスだろ?それでも姿を見せないってことはこいつらの視界を使ってこっちを見てたと思うぞ。」 「陰険な奴らですね。暗殺に覗きって。」 「そのうちまた現れるだろうな。」 なんとか窮地を脱した俺たちは体を休めるために野営地に戻る。 それからは何の音沙汰も無いままテイキビに辿り着いた。
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