第二章 ドワーフの国 -テイキビ-

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テイキビはドワーフの国の首都。 実に多くのドワーフ達がここに住んでいる。 人種との貿易も盛んで門前で多くの人種を見掛ける。 ドワーフは主にライラーとして働く者が多く、手先はかなり器用だ。 門前でその手先の器用さを目の当たりにする事が出来る。 門へと続く道は綺麗に石畳が敷き詰められ、その両脇には美しい装飾が施された街灯が等間隔に配置されている。 街へと入るための門にはまるで生きているかのようなドワーフとそれを取り囲む様に何かの花が彫刻されている。 「あの門に見えるドワーフがドワーフの王テイキビ王です。」 「目付きが鋭くて怖そうだな。」 「ドワーフ達を纏めあげる手腕は素晴らしく、怒ると怖いそうですよ。」 「へぇー。周りにある花はなんだ?」 「メイサ草の花ですね。」 「メイサ草?何か特別な物なのか?」 「いやいや、そんな事ぁねぇよ。」 門前で列を待っていながら話をしていると突然隣にいた小さなおじさんが話し掛けてくる。 ドワーフの男性らしい。 黒髭でもっさりと黒髭をたくわえている。 「このメイサ草ってのは俺達ドワーフにとって神聖な物なんだ。」 「神聖な?」 「まぁトレードマークみたいなもんだな!」 「なるほど。」 「俺はアジャルってんだ。よろしくな!」 「こちらこそよろしくな。俺は真琴だ。」 「マコト?変わった名だな?」 「まぁな。」 「どっから来たんだ?」 「ジゼトルスから来たんだ。」 「は?!歩きでか?!」 「まぁな。」 「はぁー…豪快な奴もいたもんだなぁ…」 「まぁ色々と事情があってな。」 「ガハハ!!面白いヤツらだ!俺ぁ装飾職人してんだ!なんかあったら街の東にある店に来てくれや!」 「分かった。必ず足を運ぶよ。」 「ガハハ!」 豪快な笑い声と共に門の中へと消えていった。 「な、なんだったんでしょうか…?」 「さぁ…?気のいいドワーフって感じではあったけどな…。」 「ほら。俺達の番だぞ。」 門で身元確認を行った後壮大な門を潜ると、門に負けず劣らずの街並みが広がっていた。 建物は勿論のこと、街灯や噴水、至る所に装飾が施され見ているだけで楽しむ事が出来る。 「凄いなー!?」 「ですねぇー!全然違います!」 もしこの世界に化学という概念が生まれるとしたならば恐らくこのドワーフ達によってだろう。そう思わせる程の技術が街中に溢れている。 「街の散策も良いけど先に宿探さねぇか?」 「健という生き物が滅びたらいいのに。」 「え?!なんで?!」 「私は?!私はどうですか姉様?!」 「プリネラ食いつくな!!」 「この景色を見てそんなことが言えるなんて…健は本当に健ですね。」 「うわー…自分の名前を言われて傷付くのは初めてだぜー…」 「まぁまぁ。その辺にしといて、宿は必要だろ。探しに行こう。」 「はい!」 「えー…俺も同じこと言ったんだけどなー…」 健の扱いはいつもの事だし放っておいて、宿を探しに街を歩く。 宿は直ぐに見つかった。 というか宿がかなりの数あって逆にびっくりしたくらいだ。 ドワーフの技術は他の種族では真似出来ない程高いため多くの種族がドワーフの物を買い求めに来るらしく、宿が豊富なんだそうだ。 この街並みを見れば納得いく事だろう。 来る時に一悶着あったのだしその日はゆっくりと体を休める事にした。 それ程高くはない安宿の部類に入る宿であったのにベッドや椅子等の家具に装飾が施してあるのを見て驚いてしまった。 翌日俺達は直ぐに冒険者ギルドへと向かった。 「お?新人さん?」 受付に向かうと直ぐに受付嬢が声を掛けてくる。 黒髪セミロングの女性ドワーフだ。 背が小さいと年齢が特定しにくい。 「私はここのギルドの受付嬢、ジュミンって言うの。よろしくね!」 「こちらこそ。」 「おぉ?!Bランク?!」 「ジゼトルスで活動してたんだが色々あって移ってきた。」 「ありがたいよぉ!」 「何か良さそうな依頼あるか?」 「どんな依頼がお好み?」 「あまり選り好みはしないぞ。」 「うーん!素晴らしいねぇ!えーっと…それなら…これなんかどうかな?」 「偵察…?」 「うん!地形とか諸々分かってないのにいきなり討伐任務に当たるよりまずは偵察とか採取の任務で土地勘を付けた方が良いかなって!」 「ありがたい気遣いだな。」 「えっへん!」 「じゃあこいつを受けようかな。」 「ありがとうございまーす!」 「このガニルテ鉱山ってのは?」 「はい!今回偵察に行って頂きたいのはこの街の南西にあるガニルテ鉱山です!既に廃止された鉱山ですが、そこに最近モンスターが巣を作っているという話が上がってきまして。」 「どんなモンスターか分かっていないのですか?」 「それを偵察してきて頂きたいのです!」 「モンスターの特定と数やなんかを調べるだけでいいのか?」 「今のところ実害は出ていませんので、討伐任務とはなっていませんが、もし実害が出そうであれば討伐して頂いても構いません! その場合は討伐報酬は出ますよ!ただ目的は偵察なので無理をしないで下さいね!?」 「分かった。じゃあ行ってくる。」 「お気を付けてー!」 ギルドを出るまで元気に手を振るジュミン。 「凄く可愛らしい方でしたね。」 「背の低さもあってか子供に見えちゃうよな。」 「いくつなのでしょうか?」 「んー…聞いたら怖い事になりそうだからやめておこう。」 因みにプリネラは既に行動を別にしている。 時折視界の端に見えるが基本的には別行動だ。 テイキビの南には大きな国や街が無いため人通りはかなり少ない。 小さな農村があるくらいと聞いているので普段はこのくらいの交通量なのだろう。 鉱山まではそれ程離れていないとの事で数分歩くだけだ。 「それにしても、人通りの少ない南門でさえ手を抜かずに綺麗にしてありますね。」 「だな。舗装されているだけでも驚きなのにな。」 「こっち側はかなり視界が開けてるな。」 「ほとんど草も木も生えてないですね。」 「土地が痩せてるんだろうな。」 「小さな農村がいくらかあるって話だったが…」 「場所によってはそれなりに作物が育つ場所があるんじゃないか?」 「だとしてもこんな痩せた土で農村となると…大変だろうに。」 「生きていくためには仕方が無いんだろうな。」 「……」 「魔法を使えたり剣を使える奴ってのは沢山いる。逆に沢山いるからこそそれで生きていくには競争率が高過ぎる。 満足に給金貰っていけるのは一握り。だから冒険者なんて言う危ない仕事が成り立ってんだろうさ。」 「世知辛い話だよな。」 「それがこの世界なんだよ。」 「真琴様は帰りたいですか…?」 「故郷にか?」 「…はい…」 「いや。俺のいるべき場所はここだよ。間違いなくね。」 「……はい!」 「凛は帰りたいのか?」 「私は真琴様さえいればどこでも関係ないです。」 「そっか。ありがとな。」 「はい!」 「あれか?」 健の視線の先には小高い山が見える。 その麓に採掘場らしき場所がある。 ドルコト山に行った時の様なトンネルは無いが山肌を削った後のような痕跡が見える。 その横には小屋が建っていて数人なら寝泊り出来そうな大きさだが、何かに壊されたように屋根が半分倒壊している。 「廃棄されたと言うよりは放棄された様な感じだな。採掘道具なんかも置きっぱなしだぞ?」 「何かがあって逃げ出した…とかですかね?」 「どうかな?そんな感じには見えないけど。争ったような形跡は無いし…小屋は破壊されてる様に見えるけど、壊されたのは多分最近だな。」 「でも道具を置いていくって何かあったようにしか見えないですよ?」 「……」 「今はそんな事より調査だろ?」 「そうでした。」 採掘場はそれ以外に特に何かがある様には見えない。 「モンスター…いませんね?」 「ここがガニルテ鉱山であってるよな?」 「そのはずですけど…あれ?」 「どうかしたのか?」 「……何か聞こえませんか?」 リーシャの言葉で全員が黙ると微かに小屋の裏から何かが聞こえてくる。 カシャカシャと言うような金属を擦り合わせるような音だ。 鎧が擦れ合う音にも聞こえるが… 警戒しながら小屋の裏手へと回り込む。 「な、なんだありゃぁ…」 一言で言えばドデカい芋虫。 ゆうに3メートルはある様に見える。 「き、気持ち悪いですね…」 「あれはメタルワームですね。」 「リーシャは知ってるのか?」 「はい。何度か見た事があります。」 「どんなモンスターなんだ?」 「雑食性のモンスターで、中でも金属を好んで食すモンスターですね。食べた金属を体表に纏い身を守ります。」 「それであんな音がしてたのか。」 「基本的には臆病なので人前にはあまり現れないんですが、一度巣を作ると縄張り意識が強くなり非常に獰猛になります。」 「つまり…」 「現状は獰猛ですね。」 メタルワームの奥に見える山に空いた丸い横穴は恐らく巣だろう。 「この状態になるとランクB対象のモンスターです。」 「そんなに強いのか?」 「食す金属にもよりますが、このガニルテ鉱山から採れる金属はバニルカ鉱。」 「バニルカ鉱?」 「魔法耐性が高く硬い金属です。ただ、爆発性を持っていて扱いが非常に難しいのであまり目にしない金属です。」 「そんな金属を掘り出してたのか…」 「魔法を変に山に撃ち込むと危険だよな…?」 「バニルカ鉱はそのままではそれ程爆発性も無いのですが…マコト様の魔力だと危ないかもしれませんね…」 「あっぶねぇ…一歩間違えたら大爆発だったな…」 「普通はそれ程高い魔力を持っていないのであまり気にしないのですが…火を入れて加工する段階で爆発性が高まる金属なので。」 「確かに真琴様の魔力だとその辺の炉なんか目じゃないくらいの温度にはなるよな。」 「火魔法は禁止だな…」 「ん?って事はあのメタルワームも下手に火魔法なんか使ったら爆発すんのか?!」 「メタルワームがどの様にしてあの金属を纏っているのか分からないのでなんとも言えませんが、留意するべきかと思いますね。」 「また怖いもん纏いやがったなぁ…どうするよ?」 「……今回は調査だけだろ?帰って報告するべきだな。」 「討伐はしないのか?」 「この辺りには農村も無いし実害は出ないだろ?」 「それもそうだな。」 「マコト様。」 「プリネラか。どうした?」 隠れていたプリネラが突然目の前に現れる。 「近くに人…ドワーフがいます。」 「は?こんな所にか?冒険者か?」 「いえ。その様には見えませんでした。」 「なんでこんな所に…いや、それよりそのドワーフは?」 「あちらに。」 「うわぁー!!」 突然プリネラの示した方向から叫び声が聞こえてくる。 今話していた実害になる予感。 走って向かう。 「なっ?!もう一匹いたのか?!」 メタルワームの別個体が一人のドワーフを食さんと首をもたげている瞬間だった。 「危ない!」 凛の判断でドワーフの目の前に石の壁が現れる。 第二位の土魔法ストーンシールドだ。 メタルワームの大きな口がストーンシールドにめり込み、突き破る。 しかし、ストーンシールドで稼いだ僅かな時間でドワーフはプリネラによって助け出されていた。 「くそっ…なんて破壊力だよ…」 凛の作ったストーンシールドは焦っていたにしてもそれ程弱いものではない。 そこらのハスラーが作り出すシールドよりずっと緻密で防御力の高いものだ。 それをいとも容易く突き破るとは… こちらを向いて口を開けるメタルワームを見て理由が分かった。 顔自体が口、という程にでかい口の中には鋭く尖った歯が全周にびっしりと生え揃い、それが何段にもなっている。 あれで噛みつかれて身体ごと回転されればまるでドリルの様に硬い物も突き破れる。 「あんなんに噛み付かれたら即死だな…」 「牽制します!!」 リーシャが矢をメタルワームに撃ち込む。 リーシャの矢は火属性なので念の為直撃は避けている。 爆発されたら堪らない。 しかし気を散らす程度にはなる。 それはリーシャも分かっているしダメージを与えようとはしていない。 動きは割と単調だが外皮が硬すぎて攻撃が通らず、健の攻撃も凛の魔法も受け付けない。 1体でも十分厄介なのに2体とは…気が滅入る。 逃げても良いが変に追われて街に近付けたら実害どころの騒ぎでは無くなってしまう。 バニルカ鉱の魔法耐性以上の魔法を打ち込めば倒せるとは思うが、メタルワーム内に取り込まれた事でめちゃくちゃ爆発性が上がってしまっているとしたらそれでも爆発する可能性はある。 そこから連鎖的に鉱山に眠るバニルカ鉱が爆発して地形が変わったら大事件になってしまう。 考えならいくつかあるが… 杖を振ろうとした時、凛が何かを思いついた様だ。 俺は杖を下ろして成り行きを見守る。
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