第一章 人間の国 -ジゼトルス-

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ギリヒの話によると、殺したパーティはそれなりに高いランクの冒険者達だったらしい。 それ故に手を出しにくかったという事だったんだが。 「つまりだ。お前達のせいでうちの重要な戦力が消えたわけだ。」 「あいつらにとっては自業自得だろ?」 「あいつらにとってはな。 俺達ギルドには関係の無い話だ。」 「……はぁ…それで?何をさせたいんだ?」 「話しがわかる奴らで良かった。 簡単に言えば討伐依頼だ。」 「討伐?」 「ここから東に行った所にゴブリン達が巣を作ってな。それが想像よりデカいらしい。」 「そいつらの討伐か?」 「あぁ。」 「そんなの他の冒険者でも可能だろ?」 「今はBランクの依頼をこなせる奴らが少なくてな。頼める奴らがいないんだよ。」 「つまり、あいつらの代わりに行ってこいと。でも俺達はまだGランクだぞ?」 「だから今回はこちらで無理矢理Cランクまで上げる。」 「職権乱用だな。大丈夫なのか?」 「無理な話ではない。」 「……」 「今回の依頼を受けてくれたなら、代わりに今回の件は上手く揉み消してやる。」 「……」 「あまり目立ちたく無いんだろ?」 「まったく…いい性格してるわ。」 「褒め言葉として受け取っておくよ。」 「分かった。やるよ。」 「報酬もちゃんと出すから安心しろ。」 「へいへい。」 「頼むぞ。 あ、さっきのはファイヤーボールか?俺も魔法剣士だから気になってな。」 「ファイヤーボールだ。」 「桁違いの威力だったな。」 「偶然だよ。偶然。」 「偶然で出せる大きさじゃなかったぞ?」 「世の中不思議が一杯なんだよ。」 「まぁ深くは詮索しないさ。それじゃ依頼の件はよろしく頼むな。 ランクはこちらでCにしておく。詳しい情報はカウンターで聞いてくれ。」 「分かった。」 ギルドマスターにまんまと転がされた気がするが選択肢はこれ以外には無かった。 個室からでてカウンターに行くと青い顔をしたパルコが立っていた。 「あー…」 「は、はい!!」 「いや、ごめんな。驚いたよな…」 「い、いえ!そんな事は!!」 「俺達の担当が嫌なら代わってもらって構わないから。今回の依頼の説明だけお願いしてもいいかな?」 「は、はい…」 「凛が聞いた方が気が楽だよな。頼んでいいか?」 「お任せ下さい!」 俺と健はその場から離れる。 周りにいる冒険者達も俺達に目をやりながら何かコソコソと喋っている。 いきなりあんな事になれば周りも警戒するよな。 と思っていると突然目の前に二人の冒険者が現れる。 「あんたら凄かったな?!」 「ジルちゃん…いきなりすぎるよ…」 いきなり声を掛けてきたのは茶髪ショートヘアの女性で見るからに男勝り。 腰に下げたショートソードと背中に背負った丸い盾からして前衛だろう。 後ろに隠れるように小さな声で諭しているのも女性で茶髪セミロングの髪。目を前髪で隠している魔道士。 落ち着いた青いローブを羽織っている。 「お、そうか。まずは自己紹介からだね!私はジル!ジル-ビリトール!ジルってよんでくれ! こっちの声が小さいのはガリタ。」 「が、ガリタ-アカリフです…」 「どうも。俺は真琴。こっちは健だ。んで、あっちで話を聞いているのは凛。」 「マコトにケンにリンだな!よし!覚えた!」 「それで?どうした?」 「いや、あいつらに絡まれてたのはあんたらだけじゃなくてな!スッキリしたのは私達も同じなんだ!ありがとう!」 「ジルちゃん…死者への冒涜は良くないよ…」 「んだよ。困ってたのは本当の事だろ?」 「それでもぉ…」 「それより声掛けてきて大丈夫なのか?」 「皆自分も殺されるんじゃって縮こまってるだけさ。見た限り普通に接してれば怒るような人達じゃないだろ?」 「まぁ、別に殺しが好きな訳じゃないしな。」 実際初めてだし。何故か落ち着いていられる所から記憶を失う前の日々を想像して恐ろしくはなるが… 「下手に手を出したりしなきゃ我慢してたぞ。一線を超えずにこっちから手を出したりしてたら、俺が真琴様に怒られちまう。」 「ほらな?大丈夫だろ?」 「う、うん…普通の人達みたい…」 「それより…マコト様って言うのは?」 「俺と凛は真琴様の従者でな。別に貴族とかボンボンとかじゃないけどガキの頃からの事だからな。」 「そうなんだ?貴族でも無いのに従者って…」 「あんまり気にすんな。形はそうでも友達みたいなもんだしな。」 「ふーん。面白い関係なのね?」 「まぁな。」 「真琴様。話を伺ってきたんですが…そちらの方々は?」 「わぁ……」 「ん?私の顔に何かついていますか?」 「あ、ご、ごめんなさい…」 「あー、わりぃ。許してやってくれ。普段はあまり人を見ないんだが…」 「いえ、別に怒ってませんよ?」 「私はジル。こっちは…」 「ガガガ、ガリタです!」 自分が思っていたより大きな声を出したのか真っ赤になっている。 「すまねぇ。リンの事綺麗だって言っててな。緊張してんだ。」 「え?私がですか?」 「はい!」 「嬉しいですね。ありがとうございます。」 「いいいいいいえ!!」 「私からするとパルコさんも可愛いと思いますが…」 「そそそんな!私なんて!」 「そうですか?真琴様はどう思いますか?」 「なんか小動物みたいで可愛らしいな。」 「一応健は?」 「一応は余計だろ?! まぁ普通に可愛いんじゃないか?」 「私もパルコは可愛いと思うぞ!」 「う、うぅ……」 「後は自信だけですよ。自信を持ってください。」 頭から湯気が出るほど赤くなったパルコはジルの背中に隠れてしまった。 「あはは…すまねぇな…」 「いえいえ。それよりどうされましたか?」 「そうだった。本題はそこだったな。 実は私達はCランクの冒険者でな。まだ来たばっかりのマコト達にいうのは変かもしれないがパーティを組んでもらいたくてな。」 「パーティですか?」 「見ての通りわたしが前衛でパルコが後衛としてここまでやってきたんだが、2人じゃ限界があってな。」 「敵が多いとどうしよも無くなるわな。」 「そうなんだよ。だからパーティを組んでもらえそうな人を探してたんだが、女二人だと変な奴らしか見つからなくてな…」 「まぁ…なんとなく分かるな。」 ジルもかなり美形の顔だ。 ものにしたい男性は多いはずだ。 「そんな奴らとパーティなんて嫌だろ? そしたらマコト達の事を見つけてな。強さも申し分ないし人も良さそうだからさ。」 「そんな簡単に決めていいのか?」 「私は馬鹿だしこんな性格だけど人を見る目には自信があるんだ。 何よりガリタが懐く人なんてそういないからな。」 「懐くって…」 「どうかな?マコト達のランクが上がるまでの間でも良いんだ!頼む!」 「ランク……」 「??」 「実はたった今Cランクに格上げされてな。」 「え?!マジか?!」 「あぁ。」 「そ、それは凄いな……」 「やっぱりそうなのか?」 「腕のあるやつがいきなりランクを上げるのは聞いた事があるが…いきなりCランクってのは初めて聞いた。」 「目立ちたく無いってのに…あの野郎…」 「真琴様ならば当然ですね。目立ってしまうのは仕方ないかと。」 「まぁ真琴様だからなぁ…」 「お前等まで…」 「いやー…やっぱり凄い人達だったんだな。 ランク上がるまでって思ってたが…私達の実力じゃ…こいつは無理そうだな。」 「え?なんでだ?」 「なんでって…実力が見合わない人がいてもパーティ的には良くないだろ?」 「実力が分からんけど…関係あるのか?」 「そうですね…別に問題あるとは思いませんが。」 「いや、あるだろ。足でまといがいると面倒だろ?!」 「んー…分からん。別に助け合えばいいんじゃないか?」 「そうですね。私達は冒険者一日目ですし。わからない事の方が多いですからね。教えて頂くのであればCランクくらいで、出来れば私と同じ女性が…二人くらいの方々が良いですね。」 「そうだな。俺もそう思うな。」 「だな。」 「じゃあ…」 「よろしく頼むよ。先輩。」 「やった!ガリタ!やったぞ!」 「ゆ、夢みたい…」 「よし!じゃあパーティ申請してくる!」 「パーティ申請?」 「パーティ申請ってのはギルドに出すものでな。報酬とか色々面倒事にならないように私達がパーティですよって申告しておくんだ。」 「そんなのがあんのか。」 「パーティ申請したらこのタグが記憶して見た目で分かるようになるんだよ。」 「へぇ。そんな機能があんのか。」 「申請してタグを渡せばすぐ終わるから今のうちにやっておこう!」 「分かった。頼むよ。」 「任せてくれ!」 早速ジルに助けられながら数分でパーティ申請が終わる。 「それで、依頼はどうする?」 「それなんだが、実はギルドマスターに頼まれた依頼があってな。良かったら一緒に行ってみないか?」 「どんな依頼なんだ?」 「ゴブリンの討伐だ。いや、殲滅か。」 「殲滅って事は…ブリリア城跡地のゴブリン達か?」 「知っていたんですか?」 「まぁこの街で冒険者やって長いからな。大体の事は知ってる。」 「ブリリア城跡地は雨風が凌げるからゴブリンが巣を作りやすいんです…」 「って事はこの依頼は珍しくないのか?」 「頻繁にあるわけじゃないが初めてでもないな。」 「今回の巣はいつもより大きいって聞きました。普通はDランク以下の依頼なんですけど…」 「今回はBランク指定になってるらしい。」 「Bランク…」 「とりあえず受けたは受けたが、難しいか?」 「私達だけじゃ無理だけど…マコト達がいるなら大丈夫かもな。」 「作戦立てないと…」 「普通はどうするんだ?」 「そうだな。ゴブリンってのは単体じゃそんなに強くないモンスターだ。 単体ならFランク指定のモンスターだからな。 だが群れると数に応じてランクも上がっていく。 Cランク以上だと上位種がいる可能性が高いな。」 「上位種?」 「ゴブリンシャーマン。魔法を使うゴブリン。 ゴブリンアーチャー。弓を使うゴブリンとかな。 普通のゴブリンより一回り大きいから見て分かるぞ。単体でもDランクのモンスターになる。」 「まぁ魔法や弓だしランクも上がるか。」 「今回の依頼がBランクとなると更に上のオーガが居る可能性もあるな。」 「オーガ?」 「めちゃくちゃデカくて、力も防御力も高い奴だ。単体でもCランクのモンスターだな。」 「倒せるのか?」 「一人じゃまず無理だな。その為に作戦を立てる必要があるんだ。 数が揃えば押し潰す事も可能なんだが…」 「数を揃えるのは無理そうだな。」 「となればそれなりの準備がいる。」 「揃えなきゃならないものとかもあるのか?」 「あぁ。この人数でBランク指定のゴブリンの巣を殲滅しようと思うと、単純に力押しでは確実に無理だ。 回復薬はもちろん、巣の状況、敵の数、上位種の数や種類なんかもしっかり把握して、どこにおびき出すのか、どこで戦うのかしっかり把握していないとあっという間に殺られる。」 「私達女は殺されるより悲惨な目に合ってしまいますね。」 「それは嫌だな。」 「ゴブリン自体は弱いモンスターだから、特に冒険者になりたての奴らは侮ってしまう。 それで殺られるなんて話は腐るほどある。 いくら相手が弱くても絶対に侮ったりしてはいけないんだ。」 「分かった。」 「じゃあとりあえず巣の状況を詳しく調べるところから始めよう。 偵察だけだが、遭遇戦になる可能性も十分あるからそれなりの装備は整えて行こう。」 「分かった。」 ジルの指揮の元次の作戦が決まった。
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