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その日は酷く疲れていた。女子社員がミスをし、その尻拭いをしていた。
いつもは真っ先に手伝いを申し出る岡谷なのに、その日は用事があるらしく帰ってしまった。筒木はもともと手伝う気がないようで何も言ってこない。
女子達は既に帰った後だし、課長は会議がある。しかも、ミスした子ですら帰ってしまったのだ。
腹が立つよりも人間関係に疲れてしまった。
食堂で伏せっていた所に、いい匂いが鼻孔をくすぐり、顔をあげればそこに珈琲が置かれていた。
「え、これ」
すぐそばに旭日の姿があり、驚いた。
昼に顔を合わせるが、向こうは食堂の兄ちゃんってだけだ。とくに話したことなど無かった。
「お仕事、お疲れさまです。珈琲、よかったら」
と厨房へと戻っていく。
パートのおばちゃんに指示をする声を聞いたことはあるが、昼は戦争だ。口調は乱暴だし見た目のこともあり怖い人だと思っていたが、敬語だし、意外と柔らかく話をするんだなと思った。
「美味い」
ホッとする。
心のこもった珈琲だから余計に美味く感じるのだろう。
「ついでにこれもどうぞ。売れ残りですが」
チョコチップの入ったマフィンだ。
腹が減っていたのでありがたくそれを頂戴する。
「あぁ、美味い」
「会社員って大変そう」
椅子を引き、向い合せに腰を下ろす。朝日の手にも珈琲の入ったコップがある。
「そうなんだ。うちの課は協力性がなくてね」
「あ……、つらいですよね、それ。俺も姐さん達をまとめるの大変ですから」
パートのおばちゃん達を姐さんと呼ぶとは。
「君、可愛がられているだろう?」
「そうですね。息子みたいだって言われます」
「そうだろうな」
納得だ。くすくすと笑い声をあげると、彼のキツイ目が優しく細められる。
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