第一話

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 その日は酷く疲れていた。女子社員がミスをし、その尻拭いをしていた。  いつもは真っ先に手伝いを申し出る岡谷なのに、その日は用事があるらしく帰ってしまった。筒木はもともと手伝う気がないようで何も言ってこない。  女子達は既に帰った後だし、課長は会議がある。しかも、ミスした子ですら帰ってしまったのだ。  腹が立つよりも人間関係に疲れてしまった。  食堂で伏せっていた所に、いい匂いが鼻孔をくすぐり、顔をあげればそこに珈琲が置かれていた。 「え、これ」  すぐそばに旭日の姿があり、驚いた。  昼に顔を合わせるが、向こうは食堂の兄ちゃんってだけだ。とくに話したことなど無かった。 「お仕事、お疲れさまです。珈琲、よかったら」  と厨房へと戻っていく。  パートのおばちゃんに指示をする声を聞いたことはあるが、昼は戦争だ。口調は乱暴だし見た目のこともあり怖い人だと思っていたが、敬語だし、意外と柔らかく話をするんだなと思った。 「美味い」  ホッとする。  心のこもった珈琲だから余計に美味く感じるのだろう。 「ついでにこれもどうぞ。売れ残りですが」  チョコチップの入ったマフィンだ。  腹が減っていたのでありがたくそれを頂戴する。 「あぁ、美味い」 「会社員って大変そう」  椅子を引き、向い合せに腰を下ろす。朝日の手にも珈琲の入ったコップがある。 「そうなんだ。うちの課は協力性がなくてね」 「あ……、つらいですよね、それ。俺も姐さん達をまとめるの大変ですから」  パートのおばちゃん達を姐さんと呼ぶとは。 「君、可愛がられているだろう?」 「そうですね。息子みたいだって言われます」 「そうだろうな」  納得だ。くすくすと笑い声をあげると、彼のキツイ目が優しく細められる。
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