第一話

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「じゃぁ、試しに甘えてみなよ」  どんと胸を叩く。  旭日のように体格が良いわけでもないし、女子のように柔らかい身体をしていない。 「いたって普通の男だけれども、それでよければだけど」  自分で言っておきながら恥ずかしくなってきた。  よくよく思えば男になんて抱きつきたくないだろう。 「うわ、俺、何を言ってんだろうな。ごめん、仕事に戻るわ」  席をたとうとした所に肩に旭日の頭がのっかる。 「旭日君」 「甘えても?」  と間近で微笑む旭日に、胸の鼓動が高鳴った。 「あ、うん」 「あ……、意外といい」  頭をのせたまま目を閉じる旭日に、夜久は動けずにいた。  これは予想以上に照れる。自分から言いだしたことだというのに。 「ありがとうございました」  肩から重みが消え、旭日が頭をのせていた箇所を手で軽くぽんと叩いた。 「いや、少しだけだけど」  そう、一分にも満たない位の少ない時間。なのに時間が止まったかのように感じた。 「俺もかすんで、いつでも言ってください」  夜久がしたように胸を叩いてみせる。  きっと緊張が伝わっていたのかもしれない。和ませようとわざと真似をしたのだろう。 「そうだなぁ、俺より頼りになりそうだし」 「頑丈にできてますんで」  胸板も熱いし腕も筋肉がついていて男らしい。 「じゃぁ、今度つらかったらかりるわ」  とこたえ、カップに残った珈琲を飲みほす。 「ごちそうさま」 「はい。仕事、頑張ってください」  と掌に二つ、チョコレートをのせられた。 「貰いモンだけど、お裾分け」 「ありがとうな」  手をあげて食堂を後にする。  心がリフレッシュされ、頑張ろうという気持ちになっている。  デスクに戻ると筒木が仕事を黙々としていた。 「お疲れ」  旭日のお蔭だろう。そう声を掛けようと思えたのは。  ついでに貰ったチョコレートを一つ、筒木のデスクに置いた。 「あ、どうも」  迷惑そうな顔、と思いきや、とくに表情を変えることなく、包装紙をとって口に入れた。  腹が空いていたんだろう。一声かけようと思ったが、筒木は仕事に集中しているのでやめた。  夜久も椅子に座りチョコレートを口に入れると仕事に集中し始めた。
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