第二話

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 そうとわかると妙にがっかりとした気持ちになり、はやく食べてここから出ていこうとご飯を詰め込む。 「お先に失礼します」 「あ、まって」  八潮は引き止めたいようだが、三木本は夜久に早く行ってしまってほしいようだ。  三木本が岡谷とトラブルを起こし、何かしらなっかと八潮が夜久に聞きたかったのだろうか。  もし、そうだとして、残念ながら同じ課でも仕事以外の話はあまりしないので、話せるようなことは何もない。  それにしても、八潮たちのせいで気持ちが落ち着かない。  トレイを持ち、返却口へと向かうと、 「夜久さん」  声を掛けられて返却口から中を覗き込めば、洗い物をしている旭日がいる。 「……旭日君」  優しいから、知りあえば誰にでも声をかけるのだろう。  そう、それはただの挨拶であって、特別なものではない。 「仕事、がんばってね」  と、それだけ口にして、食堂を後にする。  自分と旭日の間に何かある訳でもない。よくよく思えば、互いの連絡先ですら知らないのだから。  何を勘違いしていたのだろう。馬鹿だなと職場へと戻り自分のデスクの椅子へと腰を下ろす。  恥ずかしい奴だ。自分自身に呆れ、デスクに顔を伏せる。  暫くの間、もんもんとしながらそうしていると、 「夜久さん」  声を掛けられて顔をあげれば、そこに旭日の姿がある。 「なんで?」  まだ忙しい時間帯だろうに、どうしてここにいるのだろう。 「声を掛けたのにうわの空だったから。疲れているのかなって心配で」  じわっと胸が熱くなる。  忙しいのに気に掛けてきてくれた。申し訳ないという気持ちと共に優越感を感じてしまう。 「大丈夫だよ。ごめんね、気を使わせちゃったかな」 「いえ。大丈夫ならいいんです」  そういうとデスクの上にカンロ飴を置いた。 「甘いけど、美味いんですよね、これ」  姐さんから貰ったモンですけどと言い、ニカッと笑う。 「ありがとう、旭日君」 「じゃ、そろそろ戻るんで」  またと手をあげて戻っていく。  天然なのか、あんなことをされたら、男の自分でもドキッとしてしまう。  しかも先ほどまでモヤモヤとしていた心が晴れ渡っていた。 「お前、顔が赤いぞ」  昼から戻ってきた岡谷に言われて頬に手を当てると、確かに熱い気がした。
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