第三話

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第三話

 旭日へと想いに気づいてしまい、結局、ご飯に誘うこともできずにフロアを出る。  普段はエレベーターで下の階へといくのだが、八潮に会えないかと下のフロアを覗くために階段を使う。  下の階にある喫煙室。そこで八潮の姿を見つけた。  以前は上の階だが自分も喫煙室を利用していた。今は煙草をやめ、近寄ることすらなかったので、随分と久しぶりだ。  ドアを開けると煙草の匂いがして、口の中がむずむずとする。 「おや、一服かい?」 「いえ、八潮課長の姿をみつけたので」 「えぇっ、吸わない人には辛いでしょ」  外で少し待っていてといわれ、ドアを開けて外へと出た。  また吸いたいなと、誘惑されそうになり、折角、一年我慢できたのだから我慢だと首を振るう。 「外まで匂ってた?」  煙草の匂いが嫌いだと思われたか、そうじゃないと伝えて、以前は煙草を吸っていたことを話す。 「あぁ、やめたんだ。すごいねぇ。僕はだめだなぁ」  場所を変えようと、八潮の手が夜久の腰へと触れる。  それがさりげなく、相手が八潮だからか、妙にドキドキとする。 「あ、ごめんね。セクハラになっちゃうから気を付けているんだけど」  馴れ馴れしいよねと腰から手が離れるが、 「いえ。男の俺でもドキドキしました」  と素直に口にする。 「あはは。可愛いことを言ってくれるね。少し、お話しようか」 「はい」  促されるまま歩き出す。階段をもう一つ下り、向かう先は社員食堂だった。 「え」  肩が強張る。そこに八潮の手が優しく触れた。 「いこう」 「は、はい」  別に八潮と話をするだけだ。だが、旭日と女子社員が話している姿が頭に浮かび、足が竦んでしまう。
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